発表のタイミングが、ナチ・ドイツに占領されていたフランスへの連合国軍の上陸作戦、いわゆるノルマンディー上陸作戦の80周年記念日だったのは偶然ではない。マクロンは「ウクライナが抵抗していかなければ和平の瞬間は訪れない」と言明している。
フランスのダッソー社が手がけるミラージュの供与をめぐる交渉は、何カ月も前から進められていた。ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は今年2月、「戦闘機についてフランスと協議している」と認めていた。
マクロンによるとウクライナに供与されるミラージュ2000は、空対空戦闘に最適化されたミラージュ2000-5というタイプだ。より古いミラージュ2000C、対地攻撃能力を強化したミラージュ2000Dではない。もっとも、基本的な形状や性能は各モデル共通だ。たとえば、水平尾翼がない代わりに三角形の主翼が機体後部まで広がった無尾翼デルタ翼、単発のエンジン、機首に搭載され、空中目標や地上目標など複数種類の目標探知に対応したマルチモード・レーダー、超音速飛行などだ。
ミラージュ2000-5が選ばれたのは合理的だった。フランス空軍に1980年代に導入されたミラージュ2000Cは、2022年に最後の少数の運用機が退役している。フランスの当局者は昨年、これら退役したばかりのミラージュ2000Cについて「まだ少しポテンシャルがある」と述べていたが、数はわずか13機だ。他方、フランス空軍の80機かそこらのミラージュ2000Dは、継続運用に向けてアップグレードが進められている。
ダッソーが1990年代にフランス空軍のためミラージュ2000Cを改修してつくった37機のミラージュ2000-5のうち、現役機は今後2029年にかけて順次退役する予定となっている。ダッソー製の新しいラファール戦闘機と入れ替えられるが、フランスのセバスチャン・ルコルニュ軍事相によると、ラファールの調達が前倒しで進んで入れ替えが早まる可能性もあるという。
事務手続きを多少急げば、フランスは現在の戦争に間に合うスケジュールで、ウクライナ空軍にミラージュ2000-5を25〜30機ほど提供できるだろう。これはウクライナ空軍が1個戦闘機旅団の現有機をすべて置き換えるか、新たに1個戦闘機旅団を編成できる数だ。