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2024.08.01 10:15

全聾の子たち6人「初めて聞こえた」。中国、最先端遺伝子治療の現在

Anawat_s / Getty Images

中国の研究者たちが、遺伝子治療のアプローチによって、生まれつき耳の聞こえなかった5人の子どもの聴力を回復させることに成功した。遺伝子がもたらす大きな障害を克服したこの革新的な方法は、他の諸疾患の治療への応用可能性を秘めていると研究者らは指摘している。

OTOF遺伝子異常の6人の子どもたちが対象

中国の復旦で実施されたこの研究は、マサチューセッツ眼科耳科病院、ハーバード大学医学部のチェン・チェン(Zheng-Yi Chen)教授、復旦大学眼科耳鼻咽喉科病院の共同研究者らの指導の下、OTOF遺伝子の遺伝性変異を患う1歳から7歳までの6人の子どもたちを対象に行われた。OTOF遺伝子は耳から脳への信号伝達に不可欠なタンパク質を生成する。

6人の子供のうち5人は、26週間の試験を通して聴力に顕著な改善が見られ、研究者たちは4人の結果を「頑健」と表現した。研究に関しては、言語習得における聴覚の重要な役割についても評価された。



この成果の重要性は、より広い意味での意義を強調したチェン・チェン氏の次の言葉にも表れている。「この成果は、遺伝性難聴に対する他の治療法の開発に道を開くものです」。

この研究で対象とされたOTOF関連難聴(DFNB9)は、先天性の高度~重度難聴を特徴とし、OTOF遺伝子の変異に起因して全聾をもたらす。この遺伝子は、聴覚信号の伝達に重要なオトフェリンタンパク質を「コード(特定の遺伝子の核酸塩基配列にしたがって、特定のタンパク質がタンパク質合成で作られること)」している。この遺伝子異常は、蝸牛細胞に物理的な損傷を与えることなく、単一の突然変異を伴うという比較的単純なものであるため、遺伝子治療の魅力的なターゲットとなった。

26週間以内に言葉を理解

治験の開始前に、研究者たちはOTOF遺伝子の「大きさ」に関連する重大な技術的ハードルに直面した。だがこの難題は、遺伝子を2つのセグメントに分割し、別々のウイルスに封入し、その混合物を蝸牛に送り込むことで解決された。遺伝子の半分を細胞のDNA内の異なる部位に挿入したにもかかわらず、細胞機構は完全なタンパク質を組み立てることに成功し、脳への信号伝達を回復させた。



治験の結果、6人の被験者のうち5人の聴力が徐々に改善し、とくに年長の子供たちは26週間以内に言葉を理解し、反応できるようになった。とりわけ、年長児では26週間以内に言葉を理解し、反応できるようになったという。注目すべきは、正式なテストを受ける前から、参加者の何人かに反応の初期症状が見られたという逸話である。

この研究の上席著者であるイライ・シュウ氏は、感情面での影響についても言及している。子どもが音を初めて聞き取れるようになった瞬間を目の当たりにした両親の反応を語ったのだ。

2022年12月に実施されたこのプロジェクトは、この症状に対処する遺伝子治療の最初の例として、重要なマイルストーンとなった。

研究者たちは参加者の経過を観察し、より多様な事例への応用研究を開始する予定だ。この治療法が成功すれば、3年から5年以内に米国連邦規制当局による承認が降りることが考えられ、そうなれば、遺伝性難聴治療における画期的な状況改善に大きく寄与する可能性がある。




(この記事は、英国のテクノロジー特化メディア「Wonderfulengineering.com」から翻訳転載したものである)

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