経済・社会

2024.06.13 13:30

家族、地域、あらゆる人と手を携えエビデンスに基づく発達支援を全国へ

熊 仁美(写真右)と竹内弓乃(同左)

発達障害やその傾向がある子どもの支援を保護者らと共に取り組むなど、支援の輪を広げるADDSが描く「希望をもって生きていける社会」への道筋とは。


「発達支援の必要な子どもたちのまわりにいる人たちが、よき支援者に自然になれる社会を目指しています」

発達障害やその傾向がある子どもと家族を、発達心理学や応用行動分析学(ABA)の知見に基づきサポートする特定非営利活動法人ADDS共同代表の熊仁美、竹内弓乃はそのような未来を描いている。発達障害やその可能性がある子どもの数は全国で100万人を超え、年々増加。そんななか、ADDSは、3つの理念を掲げている。1.保護者とともに取り組む、2.研究成果に基づいた手法を選択、3.社会に変化を起こす──。この理念に基づいた3つの事業を手がける。

ひとつは、「効果の高い発達支援」だ。ADDSの江戸川、荻窪、鎌倉の3拠点をはじめ、全国の連携事務所に対しABA理論に基づいた発達支援アプリケーション「AI-PAC」を提供。一人ひとりの個性に合わせた支援計画や進捗を支援者と家族で共有できる。支援を受ける親子の数は年間359人(22年度)、延べ人数は1万7664人(同)にのぼる。親子共学型療育プログラム、オンライン発達相談サービスも提供し、「ペアレントトレーニングをはじめ徹底的に伴走することで、家族も『専門家』になる。家庭で実践できるように支援している点が特徴です」(竹内)。

ふたつ目が「支援者の育成」だ。立ち上げ当初から「支援者の学びの場」であることを重視してきた。「AI-PAC」や人材育成プログラムの提供をはじめ、「初級ABAセラピスト養成講座」「学生セラピスト養成研修」なども行う。これまでに5082人に学びを提供してきた。

最後は、研究開発だ。「AI-PAC」に蓄積された療育課題に関する延べ240万件以上のデータを解析し研究を行っている。科学技術振興機構(JST)/社会技術研究開発センター(RISTEX)のプログラムにも過去2度採択され、エビデンスに基づく発達支援が地域で提供される事例の創出や対人支援領域におけるデータ利活用の可能性や障壁調査なども行ってきた。「研究開発の成果を社会実装し、質の高い支援の輪が広がることが目的。発達障害という言葉は広く知られてきましたが、やるべきことは多い」(熊)

23年から、READYFORと共同で休眠預金活用事業の資金分配団体として、「発達障害支援の質向上を目指す地域ネットワーク構築事業」も開始。全国の団体に資金提供と伴走支援を行う。支援の輪の広がりとともにもくろむのは「日本の制度のなかで、本当に有効な支援を評価できる指標の開発」だ。「全国の事業者と連携しよい実践モデルをつくり、データを通して日本ならではのモデルを生み出したい。それが『すべての人が希望をもって生きていける社会へ』という私たちのビジョンの実現につながりますから」(竹内)。


熊 仁美◎特定非営利活動法人ADDS共同代表/心理学博士/公認心理師/日本女子大学講師/法政大学兼任講師ほか。2007年慶應義塾大学文学部心理学専攻卒業、同大学大学院社会学研究科心理学専攻博士課程修了、博士(心理学)。2009年ADDSを設立し、現在に至る。写真右。

竹内弓乃◎特定非営利活動法人ADDS共同代表/臨床心理士/公認心理師。2007年慶應義塾大学文学部心理学専攻卒業、同大学大学院社会学研究科心理学専攻修士課程修了、横浜国立大学大学院学校教育臨床専攻臨床心理学コース修士課程修了。2009年ADDS設立。写真左。

文=加藤智朗 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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