起業家

2024.06.12 13:30

「かくれフードロス」解消の鍵を発見!父の失敗から生まれた食料サイクル物語

ASTRA FOOD PLAN代表取締役社長の加納千裕

捨てられる食品の裏側には、膨大な量の「かくれフードロス」があることをご存じだろうか。父の思いを継いだフードテック・スタートアップが挑む循環型フードサイクル構築の物語。


日本はフードロス大国だ。スーパーなどで廃棄される食品は年間約600万トンにのぼる。これだけでも相当な量だが、実は産地で出る規格外の野菜や余剰農作物、野菜の芯や皮といった残さの量は年間約2000万トン以上と、フードロスの4倍以上あることはあまり知られていない。

これらの残さを「かくれフードロス」と名付け、熱風乾燥機と過熱水蒸気を組み合わせた「過熱蒸煎機」で課題解決に挑むのが、加納千裕が率いるASTRA FOOD PLAN(以下、ASTRA)だ。

熱風を用いた乾燥装置や過熱水蒸気を使った殺菌装置は従来からある。ASTRAが自社開発した過熱蒸煎機は、これら2つの装置の強みをかけ合わせることで食品の風味の劣化や酸化、栄養価の減少を抑えながら乾燥・殺菌できるのが特徴だ。常温水を瞬時に過熱水蒸気に変える技術を搭載しているためボイラーを使う必要もない。食材への加熱時間はわずか5〜10秒で、低コストかつ高速で残さを食品パウダーにアップサイクルできる。

「食品の残さを新たな原料に生まれ変わらせれば、わざわざコストをかけて廃棄する必要がなくなります。さらに、過熱蒸煎機でできた食品パウダーを他社に販売できれば新たな収益源にもなります」

そこでASTRAは食品残さの処理に悩む事業者に過熱蒸煎機の販売やレンタルをしつつ、本装置でできた食品パウダー「ぐるりこ(R)」の用途開発を通じて循環型フードシステムの構築に取り組んでいる。

2024年2月には吉野家ホールディングス(以下、吉野家)が、牛丼用玉ねぎのスライス加工を行うセントラル工場に過熱蒸煎機を導入した。吉野家で出る年間約250トンの玉ねぎの端材のほぼ全量を粉末化し、残さ処理のコストを削減。オニオンパウダーはASTRAが買い取り、SDGsへの取り組みをアピールしたい食品メーカーなどに販売する。

「かくれフードロスは1社だけでは解決することができません。だからこそ、需要と供給をつなぐ役割を担う人や企業が必要なのです」
次ページ > 技術を実装できなくては意味がない

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事