起業家

2024.06.12 13:30

「かくれフードロス」解消の鍵を発見!父の失敗から生まれた食料サイクル物語

技術を実装できなくては意味がない

今でこそ真のフードロス問題に取り組むASTRAだが、創業時の狙いは「食品の栄養や風味を残しながら粉末化する機械を開発することだった」と加納は言う。

事の発端は加納の父、加納勉にあった。勉はセブン-イレブン・ジャパンの常務取締役にまで上り詰めた人物だ。生産者の収益向上や消費者の健康に貢献したいと考えた勉は1998年に同社を辞めて起業。過熱水蒸気を使った野菜やフルーツの冷凍ピューレを開発・販売したものの、採算性などの課題を解決できずに撤退。次に立ち上げた過熱水蒸気オーブン開発のベンチャーも技術的な難があり、道半ばで頓挫したという経緯がある。

「私も父の会社で5年弱働きましたが、父は経営者として軒並み大失敗。いよいよ引退かとなったときに、当時上司だった吉岡(久雄・ASTRA FOOD PLAN専務取締役CTO)が『僕に新しいアイデアがある。過熱水蒸気技術で品質のいい食品パウダーをつくれる装置を開発しよう』と言ってくれたのです」

父のビジョンを引き継いで、もう一度チャレンジしよう。そう決めた加納は2020年にASTRAを設立した。1年後、吉岡が開発した過熱蒸煎機を見て驚いた。

「低コストで大量に食品を乾燥・殺菌できるし、パウダーには栄養成分が豊富に残っていました。この装置が対象にすべきは、行き場がなくて捨てられる食品残さではないかという仮説が芽生えました」

この仮説を立証するために、加納たちは企業にヒアリングをして回った。最初に訪れた白菜の加工メーカーは、年間5億円かけて産廃業者に残さを引き取ってもらっているという。その後も、ほぼすべての事業者が残さの処理に膨大なお金を払っていると打ち明けた。過熱蒸煎機と社会課題がリンクした瞬間だった。

機械はできた。潜在顧客は多い。社会課題の解決にも貢献できる。だが、過熱蒸煎機はまったく売れなかった。

「残さが出る事業者からは『パウダーの使い道がない』、消費者向けの商品をつくる企業からは『パウダーが安定供給される保証がないと取引できない』と言われる。鶏が先か、卵が先かというなかで、パウダーの用途開発までやらないとかくれフードロスは解消できないと気づきました」

このころから、加納は経営戦略の一環としてさまざまなビジネスコンテストに出場し、周囲のアドバイスを受けながらビジネスモデルを磨いていった。そんななかで出合ったのが吉野屋だ。吉野家から出る玉ねぎの残さで実験したところ、香りが豊かなオニオンパウダーができた。これをベーカリーチェーン「ポンパドウル」に持ち込んだ。過熱水蒸気で処理したピューレは品質はいいが使い勝手が悪い、パウダーにならないか、と10年ほど前にリクエストされていた。

「『ようやくパウダーができました』と持っていくと、ずいぶん時間がかかったねと言われながらも喜んで使ってくださいました」

23年2月には、吉野家のパウダーを使ったオニオンブレッドが全国のポンパドウルの店頭に並んだ。その後の吉野家との事業展開は前述の通りだ。23年9月にはシリーズAラウンドの資金調達を実施。累計の資金調達額は2.2億円になった。

「フードテックを開発するよりも、それを社会実装し仕組み化するほうがはるかに難しい。企業や人をつないで循環型フードサイクルをプランニングする企業。これが、私たちが目指す姿です」

父から子へ。世代を超えた思いの循環が、食のサーキュラー・エコノミーの未来を開こうとしている。


加納千裕◎埼玉県出身。女子栄養大学栄養学部を卒業後、ロック・フィールドや榮太樓總本鋪、塚田農場プラスなどを経て父・加納勉が創業したスタートアップで過熱水蒸気によるピューレ製造技術を用いた商品開発や販売営業に従事し、過熱水蒸気オーブンの法人向け営業にも携わる。2020年にASTRA FOOD PLANを設立し代表取締役社長に就任。

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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