2024年1月、SORA Technology代表取締役の金子洋介は世界経済フォーラム(ダボス会議)に招待され、自社の手がけるマラリア対策事業について講演した。同社は、AIと航空宇宙技術でグローバルヘルスや気候変動課題に挑むスタートアップ。金子は講演で、すべての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、負担可能な費用で提供する「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」の重要性とインパクト投資について訴えた。「インパクト投資のROI(投資収益率)を最大限に高めるのはテクノロジーであり、我々の取り組むドローン、AIの領域だという話をしました」(金子)
マラリアは現在、「クライメート・アンド・ヘルス」と呼ばれる気候変動に起因した健康リスクのひとつとみなされ、その解決は世界的な課題だ。年間2億4700万人が感染し、61万9000人が死亡、多くはアフリカ地域で発生している。同地域の感染は深刻で、死亡者の約80%が5歳未満の子どもたちだ。世界保健機関(WHO)は、30年までに、世界のマラリア罹患率および死亡率を、少なくとも90%削減(対15年比)するという目標を掲げている。そして、対策に年間数千億円という費用が投じられている。
「蚊による健康被害を防ぐためには、蚊を発生させないための根本的な対策が必要です」(金子)
SORA Technologyは、マラリアを媒介する蚊の幼虫(ボウフラ)が成虫になる前に水たまりで駆除をする手法に、自社開発のドローンとAIを組み合わせた技術を用いている。WHOが推奨している蚊帳の利用、室内への駆除剤散布が蚊から人を守る対処法なのに対し、ボウフラ対策は蚊の発生を防ぐため、非常に有効な方法だ。とはいえ、従来のボウフラ対策は、人海戦術で無選別に水たまりに殺虫剤をまいていたこともあり、コスト・環境面ともに非効率だった。
同社では、固定翼型ドローンで広いエリアを撮影して水たまりを検知し、AIでボウフラ繁殖リスクが高い水たまりだけを抽出し、高リスクの水たまりのみ殺虫剤を散布する。ドローンとAIを駆使し、コストと環境負荷の低減を実現。金子らの試算では約5割のコスト削減にもなる。
「最近訪れた、世界一マラリア患者数を抱えているコンゴ民主共和国の保健省副大臣は『すぐに事業を始めよう』という好反応でした。引き合いは非常に強い」と金子が話すように、同社のマラリア対策事業は、すでに展開しているシエラレオネ、ベナン、ガーナに加え、アフリカ諸国で事業拡大が進んでいる。