先進国にリバースイノベーションを
金子はドローン管制システムのテラドローン最高戦略責任者などを経て、JAXA(宇宙航空研究開発機構)に転職。JAXAでは航空技術部門で主任研究開発員としてドローンや「空飛ぶクルマ」などが飛ぶ空域を管理するシステム開発を行ってきた。JAXA在籍中の2020年にSORA Technologyを創業し、退職後の22年から本格的に事業展開を始めた。創業のきっかけのひとつが、テラドローン時代に事業開拓で訪れたアフリカでの現地需要だ。「日本では社会実装が遅い。交通網をはじめとしたインフラが整備されておらず、社会的なニーズが高いアフリカで、先行的に社会実装したかった。そのほうがリープフロッグの発展ができますから」その思いで始めたものの、最初に想定していた医療物資配送は、頓挫。シエラレオネで実証実験に臨もうとユニセフや科学技術イノベーション局と基本合意書(MOU)を締結したが、保健省からの回答で同事業のニーズがないことが判明。「マラリア対策を先にやってほしい」という現地需要に応えるカタチで、主軸となるマラリア対策事業が生まれた。現在は、アフリカ5カ国での売り上げを伸ばしながら、事業を展開する国を増やすべく金子自ら現地に飛び、陣頭指揮に当たる。マラリア関連の市場規模は「30年にかけて22年の3倍になる」と金子は話す。
「僕らも『30年までのマラリアの撲滅』という目標に向かっています。撲滅したから事業機会がなくなるわけではない。世界では病原体検知・感染症インテリジェンスの重要性が格段に上がっています。我々はマラリア対策事業だけでなく、世界で得られた感染症データをグローバルに活用・各国の最先端研究機関と共有することで製薬、殺虫剤の開発にもつなげています」
今後は、ジカ熱やデング熱、黄熱病など蚊媒介性疾患へ事業を拡張し、新たに衛星を活用したサービスの開発にも取り組む。金子が創業以来、一貫して構想している戦略は「グローバルサウスの国々での事業展開で得たデータ、テクノロジーをもとに、先進国にリバースイノベーションを起こすこと」だ。「僕らの戦略は長期的に見たら合理的であることは自明です。圧倒的な成果を出すことで、日本からグローバルサウスへのインパクト投資が間違っていないことを証明したい」。
気候変動が及ぼす人間への健康被害は、50年までに栄養不足やマラリア、熱中症による年間追加死亡者が25万人にのぼるというWHOの予測もある。だからこそ、「宙(SORA)を活用した災害・疫病に負けない持続可能な社会」の実現を目指す金子の思考は壮大だ。「僕の世代で実現するとは思っていません。100年という時間軸でとらえているので、僕は未来世代への『つなぎの世代』に過ぎません。だからこそ、今が頑張りどきですし、私たちがインキュベーターとして将来のグローバルヘルスを担う人材輩出企業になっていきたい」。
金子洋介◎SORA Technology代表取締役、創業者&CEO。慶應義塾大学経済学部卒業後、アクセンチュアのストラテジーマネジャー、テラドローン最高戦略責任者を経て、JAXA(宇宙航空研究開発機構)航空技術部門災害対応航空技術チーム主任研究員を務めた。2020年、同機構在籍中に、SORA Technologyを創業し、現在に至る。