無知に基づく数々の俗説に反して、在りし日の金本位制は機能していた。米国は1970年代初頭までの180年間、金本位制を採用していた。米ドルの価値が金(ゴールド)と結びついていた時代にはインフレは起こらず、米国は人類史上最長の経済成長を遂げた。
米ドルの金兌換性が失われて以来、長期経済成長率の平均値は約3分の1に低下した。金本位制時代の成長パターンを米国が維持していたならば、今日の世帯所得の中央値は少なくとも4万ドル(約620万円)は上昇していたはずだ。
こうした事実にもかかわらず、金を基軸とする通貨制度に対する軽蔑と侮蔑はあまねく広がっている。
とはいえ、思いもよらないことが思わぬかたちで検討の最前線に急浮上し、現実化するのは世の常だ。変化の兆しはすでにある。
まず、世界の中央銀行は近年、かつてないほど旺盛に金の買いを増やしている。中国、インド、ロシア、ポーランドをはじめ、多くの国が積極的な金購入を行っており、その背景には基軸通貨としての米ドルの長期的な価値に対する疑念の高まりがある。それはすなわち、米国が衰退するとみなされている兆候だ。
もう1つの兆候は、暗号資産の人気である。もともと管理通貨制度下で流通する不換貨幣の信用力低下を受け、救済策としてテック業界が編み出したのが暗号資産だ。問題は、ビットコインに代表される暗号資産の開発者の大半が、商取引に用いる通貨は長期契約に使われるならばなおのこと、安定した価値を持っていなければならないという事実を理解していない点だ。
金価格と連動した暗号資産はいくつかあるが、いずれも広く利用されるに足る信頼性の獲得や仕組みの構築には至っていない。もっとも、各国政府が金融政策をめぐってもたもたしているうちに、状況は変わるだろう。