「日本だけでなく世界の製造業のあり方に一石を投じるような意義ある挑戦を続けたい」
2015年の分割創業から9年。栃木県足利市を拠点にする従業員約130人のAeroEdge(エアロエッジ)の創業社長、森西淳はそう語る。同社の母体である菊地歯車は1940年創業の歯車(ギア)製造を手がける中小企業だが、いち社員だった森西が航空宇宙部門を立ち上げ、2013年末、航空機エンジンを開発・製造するグローバル企業、サフラン・エアクラフト・エンジンズ(本社・パリ)と長期契約を結んだ。サフラン社と、部品を量産するティアワン企業として契約した日本企業は初めて。納入するのは、エアバス機やボーイング製の航空機に搭載される新型エンジン「LEAP(リープ)」の部品で、AeroEdgeの主力製品となるタービン・ブレード。
小さな組織ながら、その契約を世界の複数社と競合して勝ち取るプロセスは、まるでラグビーで日本代表が相次ぎ世界の強豪を撃破するジャイアントキリングをほうふつとさせる。
タービンは航空機エンジンの重要部品。回転軸を放射状に囲む多数のブレード(羽根)の受注は量産化につながり収益率の向上が期待できる。一方、耐久・耐熱性、強度が必要で加工にマイクロメートル(1000分の1ミリ)レベルの高い精度が求められる。新型エンジン「リープ」では、ナローボディ用のブレード材として初めて軽量の新素材「チタンアルミ合金」が使われた。加工が難しいこの新素材の攻略に参加企業は大苦戦。切削の精度、安定性、コストを競うなか、競合相手は次々に脱落し、試作品の完成にたどり着いたのは菊地歯車だけだった。
「チタンアルミ合金は、世界でも加工技術がある企業はまだ数少ない、いわゆるグローバルニッチの分野。小さな会社が世界に挑むとすれば、勝機はそういうジャンルにしかない」。
森西が世界に挑んだのは、今後さらに軽量化のニーズが高まる航空宇宙産業で、チタンアルミ合金という新素材をめぐるブルーオーシャンの市場が広がる可能性を見たからだった。15年、森西は菊地歯車から自ら立ち上げた航空宇宙部門をスピンアウトさせ、AeroEdgeを創業。チタンアルミ合金のタービン・ブレードの量産化に成功し、22年にはサフラン社が同社のグローバルサプライチェーン約2000社から「品質や供給体制が特に優れている」企業に贈る「サプライヤー・パフォーマンス・アワード」の受賞5社に選ばれた。