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2024.06.25 11:00

20年かけて覆した「ディープテック投資うまくいかない説」 UTECが日本の代表的テックVC になるまで

UTEC郷治友孝社長

潮目が変わったのは創業10年目のことだった。
最先端の科学技術の事業化にこだわり続けたUTECのスタートアップ支援と成功の物語。


 ディープテックスタートアップ投資はうまくいかないーー。
 
 そんな常識を創業から20年かけて打ち砕いてきたのがUTEC(現・東京大学エッジキャピタルパートナーズ)だ。これまで5つのファンドを組成し、毎回成功を重ねて調達額を拡大してきた。

 約243億円規模のUTEC4号ファンドは100億円以上のファンドのカテゴリーで運用成績3位にランクイン。2018年設立にもかかわらず、2015年以前に設立された他の上位ファンドに引けを取らない28.7%の利回りを記録(出典:Preqin・JVCA『国内VCパフォーマンスベンチマーク第5回調査』)。単に採算が取れるだけでなく、十分にリターンが出ることを示したのだ。

 科学的な発見、革新的な技術的思想に基づくディープテックは私たちの生活や社会に大きなインパクトをもたらしうる。だが、サービス業などとは異なり、事業化までに長い期間と多額の費用を要するとされ、不発に終わることも多い。

「最初、ファンドはありませんでした。投資家訪問をくり返しましたが、こちらには実績も何もない。門前払いもあれば、いい線まで行って最後にダメになったケースもあります。投資家にお金を出していただくことがいかに大変かを痛感しました」とUTEC郷治友孝社長はふり返る。

 2004年に約83億円でUTEC1号ファンドを設立したものの、収支トントンにするのにも苦労した。

「投資家に出していただいたお金を返すまで10年近くかかりました。ただ、投資した額と同じ額のリターンを得るだけではまた投資しようと思ってもらえません」

 潮目が変わったのは2013年。投資先でUTECが創業前からかかわった東大発バイオベンチャーのペプチドリームが東証マザーズに上場し、3日後に時価総額1,000億円を超えたのだ。「その後も企業価値は上昇。ずっと株主でいたいと思わなかったと言えばうそになります(笑)。でも、これで周りの目が変わりました」

 UTECの成功に触発されたのだろう。その後、シード、アーリーステージのディープテックを扱う官民の大学発ベンチャーキャピタル(VC)の設立が相次いだ。ディープテックのVCファンドがひとつのアセットクラス(投資対象となる資産)として投資家から認められたのだ。

 これによりディープテックVC同士の共同投資機会も増えた。大阪大学発ベンチャーのマイクロ波化学はそのひとつだ。同社は総額約50億円を調達し2022年に東証グロースに上場した。ディープテックスタートアップの資金調達額の大型化にも寄与しているのだ。 

投資先の経営チームづくりにも貢献

郷治によれば、ディープテックのスタートアップ投資の成功には長い時間がかかるという「常識」は、強力な経営チームの構築により払拭できるという。

「優れた研究者が、同時に会社の経営も成功させられるとは考えにくいです。学術界では世界中の研究者がしのぎを削っています。起業を考える研究者は、なんといっても研究の世界で秀でている必要があります。

 そのため、スタートアップを創業しようという研究者には、経営者をはじめ、財務、知財、品質管理、製品開発、マーケティングといったプロフェッショナル人材をつなげて、強力な経営チームをつくることが重要です。2018年には投資先の経営幹部の採用などのHR(人事)を担う専門チームをつくりました」

 製品やサービスの開発段階に合わせてスタートアップの経営メンバーに求められる役割はさまざまだ。スピード感のある成長を実現するためには外部から人材を機動的に集める必要があるが、容易ではない。理由のひとつは、スタートアップに加わる側の心理的な壁が高いからだ。

 その壁を下げる仕組みのひとつがUTEC Startup Opportunity Club(SOC)。

「いきなりスタートアップの経営チームへの参画をお願いしても、ハードルが高い。経験豊富な方々にSOCに登録の上、投資先企業のアドバイザーなどに就いていただきます。その後お互いニーズが合えば、経営参画いただきます」

 例えばDNAを効率的に増幅する技術をもち、2023年に米製薬大手モデルナに買収されたオリシロジェノミクス社のCEOも、UTECのつながりで参画した。こうした例を含め、UTECではこれまで100人以上の経営人材を投資先企業につなげてきた。

 その原動力は、IPOやM&Aを果たした後もUTECアラムナイとしてつながるビジネス人材や、東京大学をはじめとする大学・研究機関へのスタートアップ支援や研究開発支援を通じて築いた人脈だ。

「VCにとって人脈は貴重な資産です。新たな起業の相談をいただく機会ももち込まれます」

 ただ、豊かなネットワークがあっても、客観的に革新的な科学技術と、革新的と自称する技術を見分けられなければ、事業の成功は期待できない。だが、郷治は、UTECでの活動の傍ら、東大院工学系博士課程でデータサイエンスを学び、ユニークな手法を開発した。

「最新かつ膨大な学術論文のデータから、事業化に有望な研究テーマや研究者を割り出す解析モデルで、ひとつの有力な判断材料になります。これだけでうまくいくわけではありませんが、良いスタートアップになる可能性の高さを客観的に評価できるので、UTECでは活用しています。

 自分の研究成果を強く信じ事業化を望む研究者に、『もう少しタイミングを見極めましょう』『こういった研究もするのはいかがでしょう』と助言する根拠にもなります」

法律をつくる側から使う側へ

郷治はもともと東大法学部出身で、1996年に通産省(現経産省)に入った。入省2年目からは、ベンチャーファンドの仕組みである「投資事業有限責任組合法」(有責法)を起草し、1998年に同法の制定を導いた。その後なぜ、官僚から畑違いのVCの世界に身を投じたのか。

「技術をもとに起業する動きが、日本では弱かったんです。その動きを邪魔している法的な障害を取り除き、ベンチャーにお金がもっと流れ込むようにすることが有責法の狙いでした。でも、法律をつくっても、実際にそういった成功事例をつくらなければ世の中は変わらないことに気づきました。そこで、実践する側へ立場を変えたんです」

 政府に意見を述べる機会もある。

「例えば、公共調達というテーマ。従来は、政府が製品やサービスを買うとき、スタートアップは社歴が短く対象になりにくいという問題がありました。これについては、革新的な領域を含めて、先端的なスタートアップの製品やサービスも調達の対象とすべきという提言を行っています」

 2023年7月、郷治は日本ベンチャーキャピタル協会会長に就任した。「ディープテック投資はうまくいかない」を覆したUTECが日本を代表するVCのひとつとして認められたといってもいいだろう。

「気になっているのは、株式市場に上場してから勢いを失うスタートアップが多いことです。起業して投資家から調達するなら、上場した後も成長し続けてスケールの大きな会社になっていってほしいと思っています。

 また最近では、事業会社系のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)もディープテックのスタートアップへの投資を活発化してきました。資金調達額が世界的に減少傾向にあるなかで、日本では特に大学発などのディープテック分野の調達額がぐんぐん伸びています。

 我々のようなベンチャーキャピタルとCVCとで協力して、ディープテックからスケールの大きな会社がどんどん成長するサイクルをつくっていきたいですね」

ごうじ・ともたか◎1996年東京大学法学部卒。通商産業省( 現・経済産業省) 入省、2004年UTEC(東京大学エッジキャピタル=当時)創立に当たり退官。2003年米国スタンフォード大学経営学修士(MBA)、2020年東京大学博士(工学)。2023年7月より日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)会長。

promoted by UTEC/text by Shinya Midori/ photographs by Shunichi Oda