北米

2024.06.06 09:00

「トランプの対中関税案」で米国経済は79兆円の打撃、専門家が指摘

ピーターソン国際経済研究所の別の報告書は、トランプが大統領に再選した場合の関税案は、「米国経済に大きな打撃をを与える」と主張している。同研究所は、トランプの案が米国の消費者に少なくとも年間5000億ドル(約79兆円)の打撃を与え、中間所得層にとっては年間で少なくとも1700ドル(約27万円)の負担増になると試算している。これに加えて、欧州やカナダ、メキシコ、中国を含む貿易相手国からの報復も予想され、コストがさらに増す可能性がある。

CNNの報道によると、ムーディーズのエコノミストであるマーク・ザンディもトランプの通商政策を強く批判している。彼は、トランプが関税引き上げの影響を減税で緩和させたとしても、67万5000人が雇用を失い、インフレが悪化し、GDPを0.6%ポイント縮小させると試算した。中国が報復措置を取った場合には、米国経済は景気後退に陥ると彼は予測している。

トランプが大統領に当選するか否か、また当選した場合にこれらの案を実行に移すかどうかは微妙なところだ。しかし、前回のトランプ政権時代から得られた教訓の一つは、彼が過去40年間の自由貿易を断固として批判していることだ。

トランプが2017年に大統領に就任した際、彼が下した最も重要な決断のひとつが、ロバート・ライトハイザーを米通商代表に任命したことだ。ライトハイザーは、1985年にロナルド・レーガン大統領のもとで通商代表次席代表を務めた。当時はドルが非常に強く、米国は日本に対して記録的な貿易赤字を計上しており、ライトハイザーは日本の対米自動車輸出の数量制限をめぐる交渉に携わった。

トランプ政権において、ライトハイザーは製造業の雇用回復に取り組んだが、その主要なターゲットは中国だった。中国は、2001年の世界貿易機関(WTO)加盟によって不当な恩恵を受けたと考えられており、米国の製造業の雇用は10年間で約600万人減少した。しかし、トランプが大統領在任中に米国の製造業の雇用はわずかしか増加せず、政権が掲げた目標は未達に終わった。

ウォール・ストリート・ジャーナルの報道によると、現在ライトハイザーが掲げる目標は、以前に比べてはるかに広範囲に及ぶという。彼は、昨年出版した本の中で、貿易不均衡を解消し、国際競争力を向上させるためにドルを切り下げるよう米国政府に求めている。

トランプが再選した場合、ライトハイザーの提言を採用するかどうかは分からない。しかし、もしも実行に移された場合は、国際金融システムと世界市場にとって前回のトランプ政権時代に起きたことよりもはるかに大きなリスクになるだろう。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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