だが、これはダイソン球が存在する決定的な証拠なのか。いや、そうではなく、その可能性にすぎない。今回の研究は基本的に、さらなる調査を行うべき恒星かどうかを、公開されている観測データを用いて判断するチェックリストであり、宇宙で生命の兆候を探索する優れた方法を見つけるための初期段階の試みだ。
ダイソン球とは何か
ダイソン球は、1960年に物理学者のフリーマン・ダイソンが提唱したアイデアで、高度に発展した文明の発電施設がどのようなものになる可能性があるかに関する推測に基づいている。基本的に恒星を取り囲む形で覆う構造物で、恒星のエネルギーの全部もしくは大半を取り込むことを目的としている。テクノシグネチャー(技術文明の存在指標)と呼ばれるこの種の構造物の探索は、主に星の光を分析して変則性を検出することにより、遠方にある地球外文明を特定する効果的な方法である可能性があると考えられている。この探索は、ダイソン球を持つ恒星が光度から示唆されるよりも多くの赤外線を熱として放出するとの想定に基づいている。
「ヘパイストス計画」
銀河系内にダイソン球が存在する可能性があるとの新事実は、英国王立天文学会の学会誌Monthly Notices of the Royal Astronomical Societyに掲載された2件の論文で明らかになった。1つ目の論文は、「天体工学の間接的な存在指標を用いて地球外知的生命体を探索」する、スウェーデン・ウプサラ大学に拠点を置く研究グループのヘパイストス計画から発表された。天文学者チームは、欧州宇宙機関(ESA)が作製した銀河系の恒星カタログ「ガイア(Gaia)」のデータを用いて、(恒星500万個の中から)想定量の最大60倍の赤外線を放射している7個の赤色矮星をリストアップした。これはダイソン球か、あるいは、生まれたばかりの恒星に一般的に見られる、星を取り巻く塵とガスの円盤(原始惑星系円盤)かもしれない。2022年に発表された同チームの論文では、恒星表面の90%を覆うダイソン球を持つ銀河系の恒星の割合として、距離100パーセク(326光年)以内の恒星5万個に1個未満と結論付けている。