11日(日本時間)に開催されたアップルの世界開発者会議「WWDC24」の基調講演で、6月28日の日本発売が発表され、価格は59万9800円(税込)から。6月14日午前10時より予約受付を開始するという。また、中国、シンガポール、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、英国での販売開始と、今年の秋に搭載OSが「visionOS 2」に無料アップデートされることもあわせて発表されている。
Apple Vision Proは昨年のWWDCでお披露目され、今年2月にアメリカで発売された。
初代モデルへの評価としては賛否あるものの、アップルが提示した「空間コンピューティング」というコンセプトはPC、スマートフォンの登場に匹敵する新たな時代の幕開けを感じさせ、衝撃をもって受け止められたと言えるだろう。
この空間コンピューティング時代の到来をいち早く描き、社名をも変えて攻勢をかける日本企業がある。
XRプラットフォーム「STYLY(スタイリー)」を運営する株式会社STYLYだ。
同社はApple Vision Pro向けのアプリを米国発売と同時にリリースし、4月にはKDDI、J.フロント リテイリング、『WIRED』日本版(コンデナスト・ジャパン)と共に、新事業創出のための共創型オープンイノベーションラボ「STYLY Spatial Computing Lab」を発足させている。
Apple Vision Proの登場は果たして世界、ビジネスをどう変えるのか。STYLY、日本企業に勝機はあるのだろうか──。
メタバースの先駆け「セカンドライフ」ブームを仕掛け、十数年にわたりXRビジネスを推進してきた、STYLY取締役COOの渡邊信彦氏に聞いた。
──はじめに「STYLY」について、教えてください。
私たちスタイリーは、アート、音楽、ファッション、映像など、様々なXRコンテンツをどなたでも簡単に制作・配信したり、視聴体験できる空間レイヤープラットフォーム「STYLY」を提供している企業です。
スマホやパソコン、VRヘッドマウントディスプレイ・ARグラス等のデバイスで、基本無料でお楽しみいただくことができ、Apple Vision Proにも対応しています。
2016年に会社を設立し、17年8月にSTYLYをリリースして以来、アプリダウンロード数は500万以上に達し、また世界39カ国で10万人近くのクリエイターの制作活動にご利用いただいています。以前はクリエイターの約6割が海外の方でしたが、コロナ禍以降は日本の方が6割ほどに増えています。
──STYLYのプラットフォーム利用料は基本無料とのことですが、収益事業は?
コンテンツをSTYLY上で公開せずにクローズドで展開なさりたい法人向けの月額5~10万円のプランがあるのと、主な収益事業として、渋谷の街なかで、空のF1とも称されるエアレースとXR技術を融合させた新スポーツ「AIR RACE X」やAR花火イベントを開催したり、品川インターシティで夜のイルミネーションと共にXRのアクアリウムツアーが楽しめるといった、街の賑わいを生み出す「都市型XRエンターテインメント事業」を展開しています。
将来的にはこうした法人事業の案件を増やしていく予定ですが、いまは先ずクリエイターの皆さんや出資いただいている商業施設・不動産ディベロッパー、メディア・IP ホルダーの方々と一緒に「空間を身にまとう時代」を目指し、XR技術を駆使した空間コンピューティングの文化を広めていくことを第一に取り組んでいます。
現実空間にバーチャルを重ね合わせて拡張
──「空間レイヤープラットフォーム」「空間を身にまとう時代」とは何か? もう少し詳しく聞かせてください。私たちは元々はメタバース関連企業として起業して、ファッションやアートをメタバースに取り込む、メタバースの世界でファッションやアートを取り扱うというコンセプトだったのですが、その後コロナ禍になった時に「逆張り」することにしたんです。
外出できないからメタバースというだけでは、コロナ禍が明けた時に人はいなくなる。だったら、その技術をリアルな方向に転用したら何ができるかと先を見据え、「現実とバーチャルを重ね合わせて空間をメディア化」して、空間を身にまとう時代を目指そうと。
で、わかりやすくメタバースにリアルをつけちゃおうということで「リアルメタバースプラットフォーム」という言葉を作り事業推進してきました。
STYLYでは、空間を2つのレイヤーに分けて構想し、現実の都市空間や商業施設に紐づく「パブリックレイヤー」と、ユーザーの周辺で個人の視点で楽しむ「パーソナルレイヤー」で様々なXR体験を提供しています。
エアレースXやAR花火といったパブリックレイヤーにおけるエンタメ事業は、ある程度軌道に乗ってきているので、今後パーソナルレイヤーの収益化も視野に入れ、稼ぎながら投資をしているというところです。
そして今年、Apple Vision Proの登場を機にやって来る「空間を身にまとう時代」、アップルが言うところの「空間コンピューティング時代」に向け、社名をPsychic VR Labからプラットフォーム名と同じSTYLYに変更し、「空間レイヤープラットフォーム」といった表現も使いながら、更なるサービス認知・事業拡大に臨んでいます。
空間コンピューティング時代のコンテンツやビジネスの多くがSTYLY上で生み出される、といったプラットフォームになることを目指しています。
単なるVRゴーグルではない
──「空間コンピューティング時代の幕開け」を標榜したApple Vision Proの登場は、いかにもアップルらしいもので、多くの人に「衝撃」をもって受け止められたといえると思います。渡邊さんはどのように捉えましたか?ようやく私たちが思い描いてきた「空間を身にまとう時代」を現実のものとするデバイスが登場したと感じました。
実は初めて聞いた時には「VRゴーグル」をアップルが出してきた、ぐらいの軽い気持ちだったんです。きっとかっこいいものができたんだろうとか、ゲームにしてもおしゃれだったり、逆にプロフェッショナルユースに寄せてくるかも、とか。
でも実際にかけてみて、これまでのメタバースを「ひっくり返しにきた」と思いました。