気候・環境

2024.07.03 14:00

氷河が融けても温暖化した海の「温度が下がらない」理由

グリーンランドに浮かぶ氷山(Getty Images)

私が学問の世界に閉じこもっていない理由の1つは、私たち科学者にとっては明白なことが、他の人たちにとってそうではないことがあるからだ。天気や気象の話題は私にとって魅力的であり、直感的なものだ。

最近、私は、SNSで海の温暖化について議論した。その投稿には「なぜ氷河が融けても、温暖化する海水の温度は下がらないのか」と尋ねるコメントがついた。その出来事は、複雑な科学の話題はしばしば単純なレンズを通して解釈されてしまうという事実を私に思い出させた。そして、説明の良い機会にもなった。
氷圏(Copernicus Climate Change Service (C3S)/European Centre for Medium-Range Weather Forecasts (ECMWF))

雪氷圏(Copernicus Climate Change Service (C3S)/European Centre for Medium-Range Weather Forecasts (ECMWF))

まず、氷床(ice sheet)、海氷(sea ice)および氷河(glacier)の定義から始めよう。NASAのジェット推進研究所のウェブサイトを見てみると、「氷河は氷と雪の大きな広がりであり、1年中陸上に存在している」とある。氷河はオーストラリア以外すべての大陸で見ることができる。米国国立雪氷データセンター(NSIDC)のウェブサイトによると、「氷床は5万平方キロメートル以上に広がる氷河の陸氷」とある。南極とグリーンランドの氷床や山間部にある氷河はいずれも陸氷だ。NASAのウェブサイトはさらに、「北極の氷は海水が凍ったものであるため、海氷と考えられている」とある。それらはすべて、地球上のさまざまな形態の氷を指す「雪氷圏」(cryosphere)の一部だ。
海洋貯熱量の1955年以降の長期変化傾向(NASA AND NOAA)

海洋貯熱量の1955年以降の長期変化傾向(NASA AND NOAA)

ここで、融けた氷がなぜ、温暖化する海の温度を下げないのかという疑問に戻ろう。確かにそう考える人がいるのは理にかなっている。何といっても、氷は冷たい。暑い日に清涼飲料水を冷やすのは氷だ。海は広大であり、地球温暖化の約90%がそこで起きている。NASAのウェブサイトでは「過去10年間は、少なくとも1800年代以来、海が最も温かかった10年間でした。2023年は、観測史上、海が最も暖かい年でした」と書かれてある。

融けた氷と温度に関する疑問に答えるために、私は1999年にBulletin of the American Meteorological Societyに掲載された『The Impact of Melting Ice on Ocean Waters(融けた氷が海水に与える影響)』という論文を読み返した。著者のエイドリアン・ジェンキンスは、融解の「直接的」な影響は、氷の近くにある水を冷やすことだと指摘する。海は絶えず動いている。対流(水や空気の中で熱が移動するプロセス)と海流は、水は比較的暖かい地域に再配分する。したがって、このような局所的な氷の融解は、広大な海の温暖化の相殺に十分なものではないだろう。しかし、それだけではない。 

2023年における地表温度の異常を1951〜1980年の平均と比較(NASA/SVS)

2023年における地表温度の異常を1951〜1980年の平均と比較(NASA/SVS)

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翻訳=高橋信夫

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