今や、東京のレストランで食事をしていて「ハズレ(不味い店)」を引くことの方が難しい。最低限の「美味い」はクリアしていることが大半だが、「本当に美味しい」と思えた店はそう多くない。私が「本当に美味しい」と思うのは、食材やシェフのレベルなどの提供側の問題ではなく、眼の前に運ばれた料理たちを深く理解できているかという、食べ手側の解像度の問題だと思っている。
私は“ものづくり”については専門だが、“食”の解像度をそこまで意識的に上げたいとは思っていない。その理由は、食事の時間まで、神経を研ぎ澄ませて仕事モードになってしまうのが嫌だから。人見知りで店の人と話したりシェフに挨拶されたりも苦手なタイプ。だから、常日頃ボーっと食べて、ただ「美味しいな」とだけ思うようにしている。
先日、本連載を始めるにあたっての壮行会を「Pizza 4P's Tokyo」で行った。そこで手に取ったメニューブックがかなり異質だった。ページをめくる前から、その冊子の厚さから「ただものじゃないな」と感じた。
メニューは本来、単なるリストであり料理を注文するためのツールにすぎない。しかし、「Pizza 4P's Tokyo」のメニューには会社のビジョンや海外の活動から、生産者やデザイナー、サプライヤーなどの情報まで記載されている。もはやメニューというよりブランドブックだが、ブランドブックという言い方でも軽い気がする。もっと高次元な「意思表示」や「覚悟の宣言」の類だと感じた。
当日は食事と会話に夢中でじっくり目を通せなかったが、改めて丁寧に読んでみると、感じ取れたことがふたつある。ひとつは、全ての人にフラットに接するというPizza 4P'sの会社・ブランドとしてのバリューだ。
メニューには、生産者はもちろん協力してもらった銀行員の方の名前まで載っているのに驚いた。ものづくりの世界でも、職人はものすごく価値ある存在として扱われるが、生産管理の人は雑に扱われて嫌な思いをすることがよくある。生産者はもちろん銀行員、デザイナー、職人、メディア関係者など関わったすべての人たちがメンバーの一員であるという思いが伝わってきた。生産者の紹介の仕方もフラットな感じがした。過度に持ち上げすぎず淡々と事実を伝えているのが心地良かった。