TOLICの正式名称は「東北ライフサイエンス機器クラスター」で、東北のライフサイエンス機器の集積拠点を、岩手県盛岡市を中心に形成することを目指す集団である。会長は小山康文氏だが、中心で集団を牽引しているのは片野氏である。
このTOLIC発足までの詳細は、ForbesCAREERに「東北再生」と題して全12話で連載したものがあるので、そちらを参照していただきたい。(第1話「新年の盛岡。激震が走った工場撤退の一報」)
とりあえず、ここまでのプロセスを簡単に要約しよう。2002年のアルプス電気盛岡工場の閉鎖をきっかけに、この地に多数のベンチャー企業が誕生した。それらがそれぞれの技術で交流を図りながら共に生き残り、ライフサイエンスを中心とするものづくり集団として、大きな母体を持つに至り、さらに発展しつつある、それがTOLICである。
そのTOLICが発足から10周年を迎え、セカンドステージに向かって新たなスタートを切った。5月22日に開催された「第30回TOLICカンファレンス 設立10周年記念」に、前述の「東北再生」をレポートした縁で筆者も出席してきたので、その模様をレポートしたい。
会場には制服姿の高校生も多数
当日、ホテルメトロポリタン盛岡本館の会場内は異様な熱気に包まれていた。まず、出席者が多い。今回は10周年という節目の回なので当然かもしれないが、報道陣がかなりの数いるのは、この手の会ではめずらしい。カンファレンスの途中では、「昼のニュースで報道されていた」という報告もされた。TOLICは法人格をもっておらず、言ってみれば、ベンチャー企業の寄合所帯である。それが、なぜここまで注目を集めているのだろうか。結論を先に言うと、自分たちは何者かというアイデンティティに訴えているからである。
地方経済の地盤沈下が憂慮されるなか、自分たち独自のものづくりで(生産ラインを請け負うということではなく)、生きていくという「ものづくりの姿勢」が地元の人々の心に訴えているのである。
この姿勢は、アルプス電気の盛岡工場時代から一貫している(これについても前述の「東北再生」の連載をぜひ読んでいただきたい)。そして、驚いたことに、会場には制服姿の高校生がかなりの数いた。
ベンチャー企業の集団が、10年目を境にして、次はこういうことをやっていきたいという発表会に、高校生が来るなど普通は考えられない。しかし、若い人たちは、高校卒業後、いや地元を離れて大学を卒業してから、どうやって生きていこうかと当然考える。
そういう若者たちの目にTOLICという集団の存在が留まりつつあると解釈していいのではないか。実際、筆者の連載「東北再生」(地元では「TOLIC物語」と呼ばれている)は高校生にもよく読まれていると聞いた。