海外

2024.06.03 08:00

大学中退の19歳が130億円調達、米防衛テック業界の異様な過熱ぶり

しかし、シリコンバレー流の「素早く行動し、既存の枠を破壊せよ」という考え方は、兵器の製造には不向きなアプローチなのかもしれない。マッハの従業員や元従業員9人へフォーブスがインタビューしたところによると、この会社が投資家に売り込んだビジョンを実現できておらず、安全上の問題や未熟なリーダーシップの問題を抱えていることが判明した。

「水素バズーガー砲」の失敗

マッハは、水素エネルギーを使ったバズーガー砲に加えて、戦場での使用を想定した「プロメテウス」と呼ばれるモバイル水素発電機のアイデアを投資家に売り込んでいた。しかし、元社員3人によると、同社は水素の製造に必要なアルミニウム燃料を適切なコストで生産する方法を見つけられなかったため、このプロジェクトを中止したという。

さらに、マッハの社員はソーントンの軽率なリーダーシップと幼稚なユーモアに悩まされていたという証言もある。同社の本社のロビーのテレビにはある時、「台湾侵攻までの時間」というタイマーが表示されていたが、それは中国からの攻撃が1800日後に発生することを想定し、それまでにプロダクトの準備を進めよう、呼びかけるためのものだったという。

「私は2008年に軍の任務で台湾海峡にいたが、その頃ソーントンは、おそらくまだ4歳程度だったはずだ。あれを見て、私は非常に不愉快だった」と、昨年マッハを辞めた元米海軍のエリック・マクマナスは語った。

マクマナスはさらに、「最も懸念されるのは財務面の問題だった」と述べ、会社がまだ具体的なプロダクトを持たず、十分なテストやデモすら行っていない段階で多額の資金を調達できたことに疑問を感じていたと話した。

ピーター・ティールの後押し

フォーブスの2024年の「30 UNDER 30」に選ばれ、昨年はピーター・ティールが立ち上げたティール・フェローシップ(訳注:大学を中退した起業家に10万ドルの資金を与えるプログラム)にも選ばれたソーントンは以前、高校時代に両親から200ドルを借りてパーツを購入し「原始的なガスガンを作った」と語っていた。

その後、MITに進んだ彼は、同校が国防総省と共同で立ち上げたリンカーン研究所で水素の専門家のチームを率いていたエリック・リンペイチャーらを自身のスタートアップに加わるように説得し、2022年末にトライデント・インダストリーズという社名の企業を設立した。フォーブスが入手した資料によると、同社は社名をマッハ・インダストリーズに変更した後、ギリシャ神話の神々の名をつけた6種類の製品開発に着手した。その中には、「メドゥーサ」と呼ばれるドローンや「ハデス」と呼ばれる偵察用気球が含まれていた。

しかし、ベッドロックがマッハのシリーズAラウンドを主導したと報道された3カ月後に、リンペイチャーは同社を退社し、新たに自身の会社を立ち上げることを発表した。これによりソーントンの会社は、事実上、水素への野望に終止符を打った。

マッハは1月に「バイパー」と呼ばれる軍用ドローンに焦点を絞る方針に転換し、この分野の多くのスタートアップと同様に米軍にドローンを売り込もうとしている。フォーブスが入手した内部文書によると、同社は今年、この製品から85万ドル前後の収益を見込んでいた。しかし、ソーントンは先週のブログの記事で、バイパーを巡航ミサイルとして再設計し、「市場の競合製品の25%以下のコストで、同等のものを送り出す計画だ」と述べていた。

マッハが本社を置くハンティントンビーチは、米国最大の軍需産業の街であるエル・セグンドに隣接している。ソーントンは最近、国防総省に食い込みつつあるようで、先日は陸軍研究所が主催するパネルディスカッションに招待された。

「大学に入学した当時、私はこの国の安全保障に貢献したいと考えていた。そして今も、アメリカが大きな戦争を戦う能力について非常に懸念している」とソーントンは先日のブログに書いていた。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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