菌を増やして豊かな森林を作るFunga
バイオマスの領域に、Fungaという少し変わったスタートアップがある。同社は森林の成長を促進するために必要な「菌(Fungi)」に着木している。Fungaのコア技術は、600以上の森林のサンプリングを元に大規模な機械学習(ML)モデリングを実施し、真菌マイクロバイオームが、さまざまの種類の森林の健康やバイオマス蓄積に対してどのように影響を及ぼすのかについて特定できるプラットフォームを運営している。ここで得られた情報を元に、同社は適切な種類の真菌を増殖させ、戦略的に配置することで、森林全体のマイクロバイオーム(微生物の集団)を回復させ、バイオマスを64%まで増加させることに成功している。
マイクロバイオームを活用して増加したバイオマスは、炭素クレジット創出に用いられる。Fungaのように菌を活用したクレジット創出に携わったスタートアップはこれまでに存在しておらず、同社の方法論で2030年にCO2を年間1200万トン(米国のみ)、2050年までに累計で30億トンも除去できる可能性がある。
Fungaはマイクロバイオームの組み合わせによって、より早く、より多くの良質な木材を生産し、豊かな森林を作ることを目的としており、BECCSの領域における可能性がさらに拡大することになるだろう。
カンラン石を利用して二酸化炭素を回収するProject Vesta
Project Vestaは「海洋CDR」という分類が最も適切なスタートアップだ。「沿岸でのカーボンキャプチャー」となるが、少々特殊な化学反応を利用してCO2の貯留を行なう仕組みを採用している。Project Vestaのコア技術は、鉱物の一種であるカンラン石(オリビン)がCO2と結合して、マグネシウム化合物(MgCO3)を作り、CO2を固定するプロセスを利用するものだ。この現象は自然界にある鉱物が風化する過程(風化促進)そのものだが、海岸に撒いた粉砕されたオリビンサンドが海水に混ざることで、Vestaはそこに含まれたCO2を回収する。風化促進によるCO2除去プロセスは、100万年単位で進むものだが、Vestaは海水に混ぜることで風化プロセスを加速させ、10年単位で進められる点がメリットとなる。
カンラン石はエメラルドグリーン色であり、海岸に撒くとその景色は緑色に染まる。見慣れぬ様子に違和感があるかもしれないが、その効果を考えると未来の海岸はグリーンなのかもしれない。現在、米ニューヨーク州でプロジェクトを展開している。
今後、さらに類似企業が参入してくる
今回のGXリーグのボランタリークレジット対象となった領域はカーボンニュートラル促進に向けたポテンシャルが高く、今後も注目される領域となるに違いない。今回紹介したスタートアップはいずれも商業化までは数年かかりそうだが、排出量取引市場が活発になれば類似企業もより参入してくるだろう。今後もぜひ注視していきたい。連載:SCRUM FOR THE FUTURE
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