小型人工衛星は、役割を終えると宇宙のゴミ(デブリ)にならないように大気圏に落として燃やす決まりになっているが、金属製の人工衛星は燃える際に有害物質をまき散らす。木材ならば、そうした大気汚染は低減できる。さらに、製造の際に排出される二酸化炭素も抑えられる。
同プロジェクトは、宇宙の環境に木材が耐えられるか、2022年3月から12月までの10カ月間、ISSで実験を行った。その結果、真空で強力な宇宙放射線にさらされる過酷な環境でも、木材はほとんど劣化しないことがわかった。その後、打ち上げの時の激しい振動に耐えられるか、真空状態で低温高温にさらしても機能性を保てるか、熱をかけても有毒ガスを発しないかといった性能や安全面に関する地上試験も行われたが、科学変化や組織の分解は認められず、好成績をおさめた。
この木造人工衛星「LignoSat」(リグノサット:リグノは木材を意味するラテン語)は、1辺10センチメートルの1Uというクラスのキューブサット。機体には住友林業の紋別社有林で伐採されたホオノキが使われている。さらに、木材同士の接合には釘や接着剤を一切使わず、「留形隠し蟻組接ぎ」という、高級家具などに見かける高度な継ぎ手の技法が使われている。宇宙での木材の活用可能性もさることながら、ロケットの打ち上げの衝撃にも耐え得る日本の伝統的な木工技術にも驚かされる。
LignoStella Projectは、京都大学で「宇宙における木材資源の実用性に関する基礎的研究」を立ち上げた宇宙飛行士の土井隆雄宇宙総合学研究ユニット特定教授の研究と、住友林業の木の総合的な活用を目指す研究のビジョンが一致したことから2020年に発足したもの。宇宙環境での樹木育成も視野に入れている。
LignoSatは、ISS到着から約1カ月後に日本実験棟きぼうから軌道上に放出され、さまざまなテストが行われる予定だ。そのデータをもとにした2号機の開発も予定されている。日本の林業に、宇宙という広大な活路が開かれることを期待したい。
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