大げさに言っているわけではない。自分の後任になることがどれほど大きなチャンスであるかをわかってもらおうと、手を尽くしてきた。「社内ではチーム内外を問わず、数えきれないほど多くの人に声をかけた。ポストについて見直し、報酬も増やした。それなのに、後任候補に推薦しないでほしいと言われ続けている」。
こんな話を聞いても、驚かない人も多いだろう。働く女性や有色人種の従業員を対象にした複数の調査で、シニアリーダーたちが昇進を目指さず、辞退さえすることが明らかになっている。「逆風がもっと強くなるから」「社風に不満があるから」といった理由でだ。
ただ、こうした傾向がより一般的になってきている点には驚かされる。
ITソリューション会社Ivanti(イヴァンティ)の2022年の報告によれば、「昇進するくらいなら他の職場で働きたい」と答えた従業員は70%に上った。シニアリーダーが大きな昇進を断わる際には、他にも次のような理由が考えられる。
あまりにも大変そうだから。筆者は数年前、息子と友人たちが、公職選挙への出馬に伴うメリットとデメリットについて議論しているのを耳にした。その場にいたのは政治好きな野心家の若者ばかりだったので、立候補に意欲的な人が多少はいるだろうと思っていた。
ところが、この予想は外れた。誰もが、公職選挙への出馬は「遠慮したい」と言ったのだ。重圧がすさまじく、絶えず資金調達に励まねばならず、党派対立に巻き込まれる不安があるからだ。
もちろん、仕事には向き不向きがあり、それは政治家も同じだが、才能あふれる人たちが立候補を考えすらしないのは問題だ。冒頭で紹介したCPOは、自身の仕事についてこう述べた。「大変な仕事であり、問題が山積みだ。面倒で、常に戦い続けなければならない仕事であることが知られている。やりたくない気持ちは理解できる」