経済・社会

2024.06.07 13:30

「賢明な政府」の時代

先日、河口湖畔の桜祭りを訪れたが、屋台村と称してキッチンカーが並び、様々な料理が提供されていた。すると、その屋台村の主催者から声をかけられた。

「この地域の数十台のキッチンカー仲間は、災害時の炊き出しなどで、行政に協力したいと考えている」
 
筆者は山梨県知事の特別顧問でもあり「富士五湖自然首都圏フォーラム」の会長でもあることから、この提案の実現に向け、早速、県に働きかけた。

実は、こうした社会貢献の志を持った市民は、日本全国に無数にいるのだが、これらの市民の力を十全に活用している自治体は、まだ、数少ない。

近年、人口減少による税収の低下、自治体職員の不足によって、本来、行政が提供すべき公的サービスが、十分に提供できない自治体が増えている。
 
こうした時代だからこそ、政府や自治体の行政も、抜本的なパラダイム転換を図るべきであろう。

それは、公的サービスを、市民や民間の力を借りて提供するという政策への転換である。
 
ただし、これは、全く新たな政策ではない。英国トニー・ブレア政権の時代、首相のブレーンであった社会学者、アンソニー・ギデンズが、社会民主主義でも新自由主義でもない「第3の道」(The Third Way)を提唱し、「公的サービスは、必ずしも『官』が担う必要はない、『民』が担うことでも良い」という思想に基づき、非営利組織(NPO)や市民団体などに、その役割を担ってもらう政策を推進した。
 
実は、その後、世界的潮流となった社会起業家や社会的事業は、この政策を一つの源流として生まれてきたものであった。そして、こうした新たな官民連携の在り方は、PPP(Public Private Partnership)やPFI(Private Finance Initiative)という政策として、世界中に広がった。
 
しかし、この政策にも限界があった。それは、政府や自治体が、民間の資金や人材、ノウハウを行政に活用しようとしたにとどまり、歴史を通じて人類社会を陰で支えてきた「目に見えない経済と資本」を積極的に活用しようとしなかったことである。
 
このことは、拙著『目に見えない資本主義』で詳細に述べたが、ここでは要点を紹介しておこう。
 
まず、「目に見えない経済」とは何か。実は、経済には、人々が貨幣の獲得を目的として活動する「マネタリー経済」(貨幣経済)だけでなく、人々が善意や好意で社会貢献の活動をする「ボランタリー経済」(共助経済)というものが存在しており、ネット革命以降、このボランタリー経済が、社会における影響力を大きく高めているのである。
 
そして、この「ボランタリー経済」が動くとき、そこに生まれ、集まり、循環するのが、「目に見えない資本」である。例えば、人々の持つ知識や叡智(知識資本)、縁やネットワークなどの人的結びつき(関係資本)、人々の互いの信頼関係(信頼資本)、世の中での良き評判(評判資本)、地域や社会の助け合いの文化(文化資本)などである。
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文=田坂広志

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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