経済・社会

2024.06.07 13:30

「賢明な政府」の時代

しかし、現代の経済学は、それが客観的指標(貨幣)で測れないという理由で、このボランタリー経済と目に見えない資本を軽視してきた。そのため、企業経営や自治体行政において、これらの経済と資本を積極的に活用する発想が生まれてこなかった。
 
その一つの意味は、人々の社会貢献の活動を積極的に活用するということであるが、もう一つの重要な意味がある。それは、政府や自治体は、予算や人員、施設などの「目に見える資本」だけでなく、「目に見えない資本」も豊かに持っているのであり、NPOや社会起業家などに、これらの資本を提供することによって、彼らを支援することができるのである。
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例えば、政府や自治体の持つ行政知識や公的サービスのノウハウ(知識資本)、社会や地域全体に広がるネットワーク(関係資本)、政府や自治体の持つ社会的信頼(信頼資本)、表彰やコンテストなどによる社会的評価(評判資本)などを提供することができる。しかも、これらの「目に見えない資本」は、賢明な政策によって、政府や自治体の周りに、そして、地域や社会に、創造され、増大し、蓄積され、循環していくものであり、実は、それこそが、国や地域の「豊かさ」に他ならない。
 
されば、いま、政府や自治体は、抜本的なパラダイム転換によって、21世紀の新たな行政と公的サービスのスタイルを生み出していくべきであろう。
 
いま必要なのは「大きな政府」でも「小さな政府」でもない、「賢明な政府」(Wise Government)であろう。そして、その政府への道は、「目に見えない経済と資本」に目を向けるところから始まる。


田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、21世紀アカデメイア学長。多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)専門家会議元メンバー。全国8400名の経営者やリーダーが集う田坂塾塾長。著書は『人類の未来を語る』『教養を磨く』など100冊余。

文=田坂広志

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田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

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