その一つの意味は、人々の社会貢献の活動を積極的に活用するということであるが、もう一つの重要な意味がある。それは、政府や自治体は、予算や人員、施設などの「目に見える資本」だけでなく、「目に見えない資本」も豊かに持っているのであり、NPOや社会起業家などに、これらの資本を提供することによって、彼らを支援することができるのである。
例えば、政府や自治体の持つ行政知識や公的サービスのノウハウ(知識資本)、社会や地域全体に広がるネットワーク(関係資本)、政府や自治体の持つ社会的信頼(信頼資本)、表彰やコンテストなどによる社会的評価(評判資本)などを提供することができる。しかも、これらの「目に見えない資本」は、賢明な政策によって、政府や自治体の周りに、そして、地域や社会に、創造され、増大し、蓄積され、循環していくものであり、実は、それこそが、国や地域の「豊かさ」に他ならない。
されば、いま、政府や自治体は、抜本的なパラダイム転換によって、21世紀の新たな行政と公的サービスのスタイルを生み出していくべきであろう。
いま必要なのは「大きな政府」でも「小さな政府」でもない、「賢明な政府」(Wise Government)であろう。そして、その政府への道は、「目に見えない経済と資本」に目を向けるところから始まる。
田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、21世紀アカデメイア学長。多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)専門家会議元メンバー。全国8400名の経営者やリーダーが集う田坂塾塾長。著書は『人類の未来を語る』『教養を磨く』など100冊余。