北米

2024.06.05 13:30

大学紛争の再来か

昨年の10月7日に、ハマスによるイスラエルへの侵攻では、約1200人を殺害、240人以上を人質にとってガザに連れ去った。イスラエルは、これを戦争行為であると宣言、10月27日からガザへの侵攻を開始した。6カ月を経過した今も、人質の一部は解放されていない。

一方、イスラエルによるガザ侵攻でパレスチナ側の死者は、3万4000人を超えている。ハマスによる先制攻撃がきっかけとはいえ、イスラエルの攻撃によりガザの多くの街が破壊され、日々死者数が増えていくことに、アメリカの大学キャンパスでは、パレスチナとの連帯を掲げる抗議行動が活発化している。抗議活動の一部は、反ユダヤ主義(Antisemitism)、ユダヤ人虐殺(genocide)、イスラエルという国の消滅を叫ぶようになり、ユダヤ系の学生を脅すような行為もみられるようになった。
 
抗議活動は、コロンビア大学、ハーバード大学、ペンシルベニア大学、などのアイビー・リーグの大学から始まり、いまや全米の40校以上に拡大している。連邦議会は、大学が反ユダヤ主義を野放しにしているとして、大学にしっかり対処するように要求を続けている。ハーバード大学、MIT、ペンシルベニア大学の3学長が下院の公聴会(昨年12月5日)で適切な対応をできず批判にさらされ、ハーバード大学とペンシルベニア大学の学長が辞任に追い込まれた(3月号、当コラム参照)
 
コロンビア大学のシャフィク学長は、4月17日に下院公聴会に呼ばれたものの、無難に切り抜けたかに見えたが、翌日、大学執行部はニューヨーク市の警官を導入して、校内でテントを張って芝生を占拠していた学生たちの排除を行った。100人以上の学生が逮捕され、登校禁止の措置が取られた。
 
しかし、19日には、ふたたびテントが立ち並び元に戻ってしまった。4月24日には、ジョンソン連邦議会下院議長がコロンビア大学を訪問、抗議活動をする学生を見下ろしながら、この混乱を収拾できなければ、学長は辞任すべきと演説した。
 
一方、いきなりの警官導入には学内の批判も高まり、教授とスタッフの集まりである大学評議会は、この警官導入がどのような経緯で行われたのか調査すると批判的な決議をした(4月26日)。シャフィク学長は、反ユダヤ主義を強く取り締まれないことを批判する共和党議会や大口寄付者と、学内のパレスチナ支持の(あるいは少なくとも共感をおぼえる)学生や教員との板挟みにあって、出口がない状況だ。ただ、5月15日には、今はテントが林立している芝生を使った卒業式が予定されているので、時間はない。
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文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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