2023年のカンヌ国際映画祭でグランプリ(最高賞の金獅子賞に次ぐ賞)に輝いた映画「関心領域」。アメリカとイギリスとポーランドの合作映画だが、映画祭ではその衝撃的な内容と斬新な撮影手法がセンセーショナルな話題を巻き起こした。
第二次世界大戦中に、ポーランド南部オシフィエンチム郊外に位置するアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所、その20世紀最大の悲劇の1つが起きた「現場」に隣接する美しい邸宅で、優雅な暮らしを送る家族の日常を淡々と描いた作品だったからだ。
花が植えられ綺麗に整えられた庭のある真新しい邸宅に住むのは、強制収容所の所長一家で、2つの場所を隔てる塀のこちら側では、普通の家族のどこにでもあるような生活が営まれている。そして、もちろんあちら側ではナチスによる大量虐殺が進行しつつあるのだ。
強制収容所の所長、ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)(c)Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved
とはいえ、劇中には強制収容所内の描写はほとんど登場しない。ひたすら収容所の隣地に住む所長一家の平穏な暮らしぶりが整然と描き出されていくのである。さながらホームドラマのように進む家族の模様は、それが日常であればあるほど「恐怖」が醸し出されていく。
「関心領域(The Zone of Interest)」とは、強制収容所を取り囲む40平方キロメートルの地域を表わすためにナチス親衛隊が使用した言葉だが、同じくユダヤ人虐殺を「最終的解決 (The Final Solution)」と呼んだように、無機質な言い方のなかに不穏な雰囲気も嗅ぎ取ることができ、この作品にはまさにぴったりのタイトルともなっている。