2)『クイーンズ・ギャンビット』(2020)
『クイーンズ・ギャンビット』は、1960年代に男性優位のチェス競技界で頭角を現した孤児の天才女性チェスプレイヤー、ベス・ハーモンを中心に描かれる。チェスの名人を目指す傍ら、ベスは幼少期のトラウマや、才能があるからこそ感じるプレッシャーに起因した精神安定剤とアルコールへの依存など、深い闇を抱えている。このシリーズは、彼女が依存症を抱えてしまうまでの過程と、天才であることがもたらす孤立感を丹念に描いている。多くのドラマでは、より魅力的な物語を作るために、トッププレイヤーのうつ病や依存症を扇情的に描くことが多い。プロットや演劇性を高めるために、性的な側面、暴力的な側面、衝撃的な側面を強調し、天才が最終的に勝利する姿を見せるために、病気から回復する過程を単純化することがよくある。このようなアプローチは、これらの問題に内在する複雑さと、継続的な病気との闘いを実際よりも小さく見せてしまい、本物の生きた経験ではなく、ドラマチックな筋書きという歪んだ描写をもたらす可能性がある。
心理学研究では、トッププレイヤーのうつ病と依存症が重要かつ蔓延している問題であることが強調されている。ある研究によると、薬物乱用とうつ病は、天才と呼ばれるような若者の間に蔓延しており、最大でその全体の23%が、薬物乱用や依存症と診断されているという。現実には、このような心理状態は、多くのメディアが描くように、整然としていて、刺激的で、娯楽的であることはめったにない。代わりに、一貫性がなく、厄介で、深い孤独を伴う、生涯にわたる戦いであることが多いのだ。トッププレイヤーは、計り知れないプレッシャーと孤独感に直面する可能性があり、それがメンタルヘルスや薬物との闘いを悪化させてしまう可能性がある。
クイーンズ・ギャンビットは、トッププレイヤーにとって、その闘いがいかに孤立を深め、容赦のないものであるかを描くことで、そうしたステレオタイプ的な描写を覆すことに成功した。このシリーズは、ベスの依存症を透明性のある視点で描き、負のスパイラルが彼女が抱えるトラウマによって何度も引き起こされてしまう様子を描いている。
The British Journal of Psychiatryによる研究では、「ベスの依存症からの回復の描写は非現実的だと主張する人もいるが、このような批判は、ベスの薬物使用と、その後の依存症からの決別につながる要因の詳細な表現を認識できていない」と指摘している。このシリーズは、彼女の苦悩をセンセーショナルにしたり、矮小化したりするのではなく、ベスの薬物使用が一貫して羞恥心や不安、孤立によって引き起こされ、彼女の依存症とその克服をそれぞれ引き起こした要因を丁寧に詳述しているのだ。
この描写は現実のパターンと一致しており、根本的な問題を解決することが依存症からの回復に最も重要な部分である。クイーンズ・ギャンビットで描かれるトラウマと依存症の描写は、長ったらしく、見づらいものではあるが、真実味のあるものであり、そのことが、この作品がこころの病を理解し議論する上で重要な芸術作品である所以なのだ。
(forbes.com 原文)