映画

2024.05.24 18:00

『クイーンズ・ギャンビット』など、こころの病を忠実に描くネトフリ作品

Artur Widak/NurPhoto via Getty Images

Artur Widak/NurPhoto via Getty Images

うつ病や依存症は、世界中の膨大な数の人々が直面している典型的なメンタルヘルスの問題だ。こうした、こころの病は一般的であるにもかかわらず、大衆文化やメディアはこれらを現実的に描写するのに苦労している。衝撃や娯楽的価値のためにセンセーショナルに描かれるか、物語を簡略化するために複雑さが最小限に抑えられることが多い。

このような安易な表現には、非常に不満が残る。しかし、全く性質の異なる2つのネットフリックスのオリジナル作品が、殻を破り、こころの病を現実的で、新鮮で、真摯な方法で表現している。心理学者も称賛するそれらの作品を紹介しよう。

1)『ボージャック・ホースマン』(2014~2020)

『ボージャック・ホースマン』は、90年代に人気を博したものの、今は落ちぶれてしまったコメディ・スターが、自分の目的を見失い、世界が自分を置き去りにしたと感じる中での苦闘を描いたダークコメディのアニメシリーズだ。人間と擬人化された動物が共存する世界を舞台に、ボージャックのうつ病や依存症、そして自己破壊的な行動の結果に焦点を当てている。6シーズンにわたるこのシリーズは、ボージャックが幸福と意味を見つけようとする山あり谷ありの試みを率直に描いている。

コメディやアニメはしばしば、うつ病や依存症を軽視し、これらの問題をユーモアのための単なるプロット装置として使用したり、不安を避けるために簡略化することが多い。このような苦悩を抱えたキャラクターは、しばしば一面的に描かれ、その複雑さを一連のジョークや単純化されすぎた物語へと還元してしまいがちだ。このようなアプローチは、メンタルヘルスの描写を表面的なものにし、これらの症状に苦しむ人々が直面する厳しい現実から切り離されたものにしてしまうだけでなく、最終的には有害な固定観念を強化し、これらの問題の深刻さを軽視することになる。

対照的に、実際の研究では、うつ病と依存症は密接に関連しており、これらの問題に苦しむ人々の生活の質が著しく損なわれていることが示されている。うつ病は、その人の人生のあらゆる側面に影響を及ぼす、持続的で衰弱した状態として現れることがあり、一方の依存症は、断ち切ることが難しい自己破壊のサイクルにつながることがある。これらの経験を簡略化することは、特に個人的に影響を受けている視聴者に対して不正確な描写となり、これらの状態が個人のキャリア、関係、幸福に与える深刻な影響を正しく表さないことになる。

ボージャック・ホースマンは、うつ病や依存症のステレオタイプ的な描写を覆し、これらの問題の浮き沈みのある性質をユーモラスかつ正直に描いている。番組の制作者は、これらの苦悩に伴う混乱や不快感を受け入れ、深刻な欠点を持ちながらも人間らしさを感じさせる主人公を描いた。ボージャックの旅は、精神的な問題を抱える多くの人々が経験する非直線的な道のりを描き、自己認識と病気の再発の瞬間に満ちている。

研究者たちは、このシリーズが本物の表現をしていることを称賛し、「ボージャックは、メンタルヘルスの戦いに関する告白的な回顧録を視聴者に提供している。このメンタルヘルス的な親しみやすさが他の番組の初歩的な描写とは一線を画している」と指摘している。
次ページ > チェスの天才の苦悩を描く『クイーンズ・ギャンビット』

翻訳=酒匂寛

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事