食&酒

2024.06.01 15:00

バウムクーヘン誕生秘話|河本英雄×小山薫堂スペシャル対談(前編)

伝統菓子の再現ではなく

小山:ユーハイムのバウムクーヘンがここまで広がったきっかけは何かありますか。

河本:いちばんはやはり「味」ではないかと。創業者のユーハイムさんはドイツの伝統の味の再現ではなく「日本人に食べてもらうんだ」という思いが強かったんです。

小山:なるほど。本物の技術や知識をベースに日本人が喜ぶ味に変えて提供したということですね。では、今後はどのような方向性を目指していますか。

河本:コロナ禍に日本創業100周年を迎えたのですが、これまでに見たことのない赤字を抱えました。そこでふたつ、試みたことがあります。まずお菓子の見直し。職人は今日より明日、明日より明後日と、レシピは変えねども、技術を向上させねばならない。私たちは「職人の系譜」と言っていますが、それを工場や開発部の親方、選りすぐりの職人と徹底的に見直しました。もうひとつは企業理念の書き換え。コロナ禍で全社員に突きつけられた「何のためにお菓子をつくっているのか」という問いにしっかりと答えるべく、「お菓子には世界を平和にする力がある」としました。

小山:それこそ1945年の終戦直後は「ギブ・ミー・チョコレート!」の世界だった。そこから100年も経ちませんが、この日本も食を通して幸せを感じられる豊かな国となりました。戦争と震災を経験してなお日本に残られたユーハイムさんは、その立役者のひとりかもしれないと今日のお話で感じました。

今月の一皿


河本氏が持参した「アタラクシア・シャルドネ」に合わせ、上柿元勝のデミグラスソースを使ったハンバーグを。

blank

都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気が置けない仲間と集まる秘密基地。


小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わり、2025年大阪・関西万博ではテーマ事業プロデューサーを務める。

河本英雄◎1969年、兵庫県生まれ。慶應義塾大学大学院修了。99年、ユーハイム入社。関西支社長、海外事業統括、代表取締役専務などを経て、2015年より現職。創業者の妻で初代のエリーゼ・ユーハイム、事業を引き継いだ祖父、父に次ぐ4代目。

写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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