起業家

2024.05.30 13:30

世界をアントレプレナーシップであふれさせるために

今回、カバーストーリーで異なる分野の起業家たちの対話を設けたのも、この「新たなつながりを生む機会」にならないか、と考えたからだ。『クリエイティブ・デモクラシー』(一般社団法人公共とデザイン、BNN)で紹介されていたイタリア在住のデザイン研究者・エツィオ・マンズィーニによると、ソーシャルイノベーションは「人、専門知識、物質的な資産が新たな方法で接触し、新しい意味と未知の機会を生み出すことができるときに起こる。つまり、この可能性は、価値を創造するために協力する人々との出会いに大きく依存する」という。こうした多彩な起業家たちの出会いが「世界を救う」ための契機になるのではないか、という仮説だ。

とはいえ、日本が多彩な起業家とアントレプレナーシップであふれかえるためには、課題も多い。日本の起業文化はまだ発展途上にある。グローバル・アントレプレナーシップ・モニター調査による「起業活動の総合指数」を見ると、米国では20%近くの個人がなんらかの起業活動を行う一方、日本は6%に過ぎない。

『スタートアップとは何か』(岩波新書)の著者で、関西学院大学経済学部教授・加藤雅俊は「世界と比較すると起業活動と無縁な人たちが多い。人々が起業に関心を持つようにするためには起業に関する文化的・社会的な規範が変化していく必要がある」と話す。同調査によると、日本は起業活動と無縁な層が70%を超えるなど圧倒的に多い(米国20%程度、OECD平均30%強、韓国40%程度)という現実がある。

地球規模の課題解決、そして文化的・社会的な規範の変化──。これらはどちらも時間がかかり、どちらも「厄介な問題」だ。であるがゆえに、個人のビジョンを通して、さまざまな他者との出会いによる新しいコラボレーションをし、「わたしたちで、未来世代に対して、どのような経済社会をつくっていくのか」という問いに挑み続ける姿勢が必要なのかもしれない。だからこそ、昨年掲げた問いにエッセンスを加えたい。「未来世代のために、私たちがすべきことは今よりもたくさんあるのではないか」

文=山本智之 イラストレーション=Kouzou Sakai

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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