起業家

2024.05.29 13:30

国境を越えた人材採用ビジネスは業界の「破壊者」として成功できるのか

ディール共同創業者のアレクス・ブアジズ(左)とシュオ・ワン(右)(Courtesy of Deel)

だからといってディールの提供するサービスへの需要が大きく落ち込むとは考えにくい。世界のどこからでもリモートワークが可能になる傾向は着実に進んでいる。ブアジズ自身もこうした新しい働き方を体現し、パリとロンドン、テルアビブ、ドバイにある自宅からリモートで仕事を進めているのだ。
 
ブアジズは、最初に立ち上げたスタートアップが失敗した後、18年にマサチューセッツ工科大学(MIT)時代の友人だったシュオ・ワンと手を組んだ。その年のうちにスタートアップ・インキュベーター「Yコンビネーター」の支援を受け、数週間で債権回収ソフトを開発すると、開発の方向性を国外にいる個別の請負業者に対する企業からの支払用プラットフォーム運営へと転換した。売り上げは19年終盤までに20%伸びた。年間ではなく月間で。Yコンビネーターのメンターのひとりアーロン・ハリスは「とてつもない快挙」と振り返る。
 
パンデミック以前は、国外から人を採用するのはほぼ大企業に限られていた。付随コストが高すぎたからだ。ディールの最も初期の顧客のひとりは、ディール登場以前は、法を完璧に守ることはほとんど不可能だったと話す。
 
リモートワークが主流になると、ブアジズとワンは勝負の時だと判断した。20年5月のシリーズA資金調達ラウンドで世界的ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツから1400万ドルを調達し、短期間で国外に法人を立ち上げていった。そうすれば、例えば顧客がドイツで人材を採用したい場合、ディールのドイツ法人を通じて採用することが可能になるからだ。
 
当初、たった5人の「精英部隊」は、各国を回っては、次々に現地企業を自社に組み込んでいった。スピードこそが命だった。立ち上げが遅れれば、その国の市場はリモート(評価額30億ドル)やオイスター(同10億ドル)といったより小規模な競合他社にもっていかれかねなかったとワンは言う。
 
ディールは最終的に4回の資金調達ラウンドを進め、評価額を2億2500万ドル(20年9月)、13億ドル(21年4月)、55億ドル(21年10月)、最後は120億ドル(22年5月)と大きく伸ばした。投資家には、スパーク・キャピタル、コーチュー、ローレン・パウエル・ジョブズのエマーソン・コレクティブが名を連ねる。
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「素早く動かなければ、我々の動きは人々の生活に実際に深刻な影響をもたらすでしょう」(ブアジズ)
 
25年の新規株式公開(IPO)を見据えるディールは現在も5億5000万ドルの現金を蓄え、月間約500万ドルもの利益を上げているとブアジズは話す。今後18カ月間に2億ドルもの大金を買収に投じる計画であり、大半は、活況な国際市場での人材企業の買収に使われる可能性が高い。
 
ワシントンD.C.もうでを終えたブアジズは、ロビー活動を強化するために政策責任者を雇った。法律に対応するのではなく、規制当局との衝突で大きな痛手を被ったウーバーやエアビーアンドビーの轍を踏まないよう、先手を打とうとしているのだ。


ディール◎2019年、アレクス・ブアジズとシュオ・ワンが共同創業したグローバルチーム向けオールインワン型人事プラットフォーム。コロナ禍で世界的にリモートワークが普及するなか、国境を越えた人材の採用、管理などを可能にするシステムを提供。120カ国以上にネットワークを広げ、2万社以上の顧客を抱える。

アレクス・ブアジズ◎パリ育ち。イスラエル工科大学卒業後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)で土木環境工学の修士号を取得。ビデオ制作アプリや投資ファンドなどの企業の立ち上げに参加。19年にMIT時代の友人シュオ・ワンとディールを共同創業した。20年にはフォーブス「30 アンダー 30」のファイナンス部門に選出された。

文=ケンリック・ツァイ 写真=グエリン・ブラスク 翻訳=フォーブス ジャパン編集部 編集=森 裕子

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