虎屋の黒川光晴社長から声がかかり、2月、福武英明はドバイで開催された「World Governments Summit」の会場にいた。ニュージーランドと日本を2拠点とし、各国のアートイベントにも赴いていることを思えば意外でもあるが、福武にとっては今回が初めての中東訪問。サウジアラビアの首都リヤドではビエンナーレが、砂漠エリアでは「デザートXアルウラ」が同じ期間に開催されることを知り、広域のアート視察を組み込んだ。
財団としても個人としても中東とは特段かかわりがなかったが、訪れてみると、グローバルなビジネスカンファレンスやアートイベントが同時多発的に開催され、「数カ月ごとに景色が変わるようなすさまじいスピード感」で物事が動く様子に、日本では感じることのないような高揚感を覚えたという。
文化エリアとしての発展を特に手に取るように感じたのが、ドバイから車で1時間ほどの距離にあるアブダビのサディヤット島だ。2017年、フランスのルーヴル初の国外美術館「ルーヴル・アブダビ」(ジャン・ヌーヴェル設計)ができたことを皮切りに、目下、美術館や博物館が建設ラッシュ。25年にはフランク・ゲーリー設計の「グッゲンハイム・アブダビ」とノーマン・フォスター設計の「ザイード国立博物館」(大英博物館と契約)が完成予定だ。
福武は、文化や芸術には歴史を含めたコンテクストが重要としたうえで、「彼らは、それを自らやっていくのは難しいと自覚しているのではないでしょうか。だから、比較的コンテクストの影響を受けづらく、今からでもつくれる建築にフォーカスした。また、政治経済を率いる若い世代が、数十年先を見据えて、まず高齢の巨匠に頼んだというのも面白い」と分析。上述の館の展示品は当面、潤沢な資金で欧米諸国から借りることになるが、年内にオープンするチームラボのプロジェクトは唯一コミッションワークとなる。
「利用できるものは利用しつつ、古代から近代、現代までをカバーし、チームラボで未来を見せる。米、英、仏、日をおさえているバランスも良く、これは新たに文化プロジェクトをつくるのにいいフォーマットだと思いました。自分たちが中東、東アジア、北アフリカの芸術文化を引っ張っていく、グローバルスタンダードのアートをつくっていくんだという気概を感じました」
中東で生まれる新時代のルネサンス
サウジアラビアで開催3回目を迎えた「デザートXアルウラ」では、ユネスコの世界遺産に登録されているヘグラの考古遺跡を背景に、砂漠のなかに「現代アートが植樹されるように」点在していた。「まだ数回目で、砂漠が広大すぎてインパクトを感じにくかったですが、これが数十年、数百年と続いていくと、木々が森となり、動物も集う生態系となるように、アートが人を呼ぶエコシステムになるかもしれない」と福武。周囲にはホテルが建ち、観光地としての発展も描かれている。世界遺産をただ保護・保存するのではなく、活用するというリスクのとりように覚悟を感じたという。