一連の法改正によって新兵を数万人以上確保できる見込みになったウクライナ軍は、兵力を大幅に拡大しようとしている。問題は、これらの新兵向けの重車両が足りないことだ。
それがどういった事態につながりかねないかはロシア軍を見ればわかる。オランダのOSINT(オープンソース・インテリジェンス)分析サイト「オリックス(Oryx)」によると、ロシア軍は2022年2月の全面侵攻開始以来、戦車、装甲戦闘車両、歩兵戦闘車両、装甲兵員輸送車だけで9000両近く失い、その補充に苦労している。ロシア軍部隊が前後左右吹き抜けのゴルフカートのような車両や、1950年代に開発された非常に薄い装甲の兵員輸送車で戦場に乗り込むケースが増えているのは、理由のないことではないのだ。
ウクライナの調査分析グループ、フロンテリジェンス・インサイトは、ロシア軍は機械化部隊の「脱機械化」を余儀なくされているために「前進は遅く限定的なものになり、全体の進捗も妨げられる公算が大きい」とみている。
ウクライナ軍も規模の拡大にともなって同様の制約に直面しかねない。ウクライナ国防省は現在、「2000人規模の旅団10個の新たな編成」「一部大隊の旅団への拡大」「軽装備の領土防衛旅団の1個を海兵隊編入」「国家親衛隊への砲兵旅団の追加」──などを進めている。
こうした編成や再編によって、現在100個ほどの旅団からなるウクライナ軍の地上兵力は10%ほど拡大しそうだ。ウクライナ軍で最大の軍種である陸軍が最も大きな恩恵を受けるのは言うまでもない。陸軍は、歩兵旅団を新たに5個編成している。
ただ、留意すべきなのは、これらの歩兵旅団(第155、156、157、158、159)は機械化歩兵旅団でないということだ。つまり、戦車のような装軌装甲車両などは配備されない。ウクライナ軍でも重車両不足は深刻で、最近編成された第153機械化旅団が歩兵旅団に格下げされたほどだ。