1980年代の玩具や衣料品から今日の半導体や再生可能エネルギー設備に至るまで、中国は何十年もの間、さまざまな産業を支配しようとしてきた。同国は現在、世界の工業製品の3分の1を製造しており、米国、ドイツ、日本、韓国、英国の合計生産量を上回る。この生産力によって、中国の工業製品の貿易黒字額は、自国の国内総生産(GDP)の10分の1に相当する規模に膨らんでいる。
世界第2位の経済大国である中国は、わずか4年ほど前までは自動車産業では取るに足らない存在で、年間約100万台の低価格車を途上国に輸出していた。ところが現在は年間600万台近くを輸出し、日本とドイツを抜いて世界最大の自動車輸出国となっている。実際、中国の自動車輸出は先月、前年同月比38%増となり、過去最高を記録した。
テスラに挑む200万円以下の中国製EV
中国国内のEVの販売は好調で伸び続けている。中国汽車工業協会(CAAM)によると、昨年の同国のEV販売台数は約660万台に上った。これは前年比約25%増、2021年との比較では128%増という驚くべき数字だ。需要が減速する兆しはない。中国は今年、71車種ものEVを投入すると報じられているが、その多くは先進的な機能を備え、欧米の同水準のモデルより低価格だ。米企業が懸念しているのは、中国自動車大手の比亜迪(BYD)が製造する小型EV「海鴎(シーガル)」だ。同車両は約1万2000ドル(約187万円)で販売されており、すでに同社を米EV大手テスラに対する「破壊者」と呼ぶ声もある。だが、今回の米政府の決定で中国製EVに対する関税が大幅に引き上げられることになったため、同車両が直ちに米国内で普及することはないだろう。
大統領選を控え、国内産業を保護
欧米の政財界は、中国の多額の補助金に対する不満を口にしている。ドイツのキール世界経済研究所によると、中国の補助金は、GDPに対する比率でフランスの約3倍、ドイツや米国の約4倍に上る。これにより、中国のメーカーは人為的に低価格を実現しているのだ。バイデン大統領による関税の引き上げは、中国の不公正な貿易慣行に対抗するためだけでなく、自国の国内産業を守るためでもある。同大統領はすでに「CHIPS・科学法」や「インフレ抑制法(IRA)」を通じて、半導体や再生可能エネルギーなどを手掛ける国内企業を支援してきた。中国に対する関税の引き上げは、こうした国内企業保護の拡大であり、米企業の競争の場を公平にすることを目指している。
だが、先述したように、バイデン大統領の動きは11月に行われる大統領選を意識したものであることに注意しなければならない。同大統領は複数の激戦州を含む全米の世論調査で対立候補のドナルド・トランプ前大統領に先んじられており、今回の動きは、失業や産業の衰退を懸念する有権者の支持を集めることが狙いだとみられる。