再生可能エネルギーへの取り組みが後退する可能性
とはいえ、関税は理想的な手段ではなく、慎重に扱うべきだと筆者は考える。関税は輸出国(今回の場合は中国)ではなく、輸入国側が支払う税金であり、追加費用を支払うことになるのは国内の消費者であることを忘れてはならない。米首都ワシントンに拠点を置くシンクタンク「大西洋評議会」は、バイデン大統領による関税率引き上げは、国内の送電網の脱炭素化に向けた努力に意図しない結果をもたらす可能性もあると警告する。米国にとって、中国は太陽光発電の蓄電に必要なリチウムイオン電池の最大の輸入相手国だ。関税の内容にもよるが、蓄電容量が影響を受ければ、再生可能エネルギーへの移行に向けた米国の取り組みは減速する可能性がある。
米市場調査会社JDパワーの報告によると、EVの新車購入を検討している消費者は、2021年以降初めて減少した。主な課題としては、手頃な価格のモデルが少ないことや充電設備への懸念、EVの補助金に対する消費者の理解不足などが挙げられる。燃料価格の低下やインフレ率の上昇といった経済的要因によっても、EVの需要は減る。
意外なことに、バイデン大統領による関税の引き上げは、中国にとって最悪の状況ではない。トランプ前大統領は、再選されれば中国からの輸入品すべてに60%の関税を課すと宣言しており、米ブルームバーグ通信は、これが実現すれば両国間の貿易は事実上消滅するだろうと予測している。
金属価格の高騰
世界中でEVの人気が高まり、各国政府が風力発電や太陽光発電施設の建設に予算を投じる中、主要な金属や素材の価格が上昇し始めている。銅先物は最近、史上最高値を更新し、ニッケル価格も目先の供給懸念から高騰している。世界第3位のニッケル生産国である南太平洋のフランス領ニューカレドニアで起きた騒乱により、電池の製造に必要な白色合金の生産が影響を受けている。ニッケルは先週、約1カ月ぶりに1トン当たり2万1000ドル(約328万円)以上で取引された。政府の政策は変革の前触れ
バイデン大統領による対中関税の大幅な引き上げは、国内の産業を保護し、不公正な貿易慣行に対抗するとともに、11月の大統領選を前に政治的影響力を得るための計算された動きだ。今回の措置は、競争条件を公平にするために必要なものではあるが、問題や意図しない結果を招く可能性もある。投資家としては、常に情報を入手し、こうした政策が市場や経済に及ぼす広範な影響を理解することが重要となる。(forbes.com 原文)