体の中の水は、体重の50パーセントを占る「最大の生体構成要素」とも言われ、食物の消化吸収、栄養素や老廃物の運搬、体温調節など生命にとって重要な役割を果たしている。そのため、水分の摂取不足は、肥満、インスリン抵抗性、糖尿病などの代謝疾患、便秘症などの腸管の機能低下といった問題を引き起こすことがわかっている。ただし、水そのものが腸内環境に与える影響については明確になっていなかった。
そこで北里大学と慶應義塾大学の研究グループは、2週間にわたり飲水を制限するマウスの実験を行った。するとマウスは、排泄物の大腸の通過時間が大幅に伸び、糞便水分量、糞便排出量が大きく低下して便秘症状を示した。しかし、血中の脱水症状は見られなかった。
また、腸管の粘液層が弱体化し、一部は途切れていたり、細菌が大腸上皮組織に侵入している箇所も見られた。腸内細菌叢にも変化があり、水分不足が大腸の物理的なバリアを破綻させる可能性が示された。
さらに、飲水制限したマウスは大腸のリンパ球を含む免疫細胞の割合が減り、糞便中の病源細菌が増加していた。病源細菌の排除にはTh17細胞が重要な役割を果たすが、これが飲水制限マウスでは減少していた。ためしに細胞に水分を運ぶタンパク質を欠損させたマウスでもTh17細胞が大きく減少したことから、Th17細胞の分化と維持には水が大切であることが示唆された。
成人が1日に必要な水分量は2.5リットルとされている。慢性的な飲水不足は、脱水症状を起こさず、ひそかに腸内の環境を破壊するという恐ろしい結果をもたらす。この実験結果が、ヒトにも当てはまるかどうかは今後の検証にかかっているが、ともかく、精神疾患をはじめさまざまな体の不具合に腸内細菌叢が影響しているという研究報告が昨今相次いでいることだし、お水をちゃんと飲んで腸内環境を整えておくに越したことはない。
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