「見えるもの」を通して「この先の10年」を予測する 

人々の投資への関心が高まり続けるこの時代。そもそも投資とは何か、投資家の本質とは何か。「投資の巨人」ウォーレン・バフェットとジョージ・ソロスの薫陶を受けた阿部修平(投信投資顧問会社 スパークス・アセット・マネジメント株式会社代表)が語り尽くすシリーズ連載、第2回。
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藤吉:このところ、世の「投資熱」が盛り上がってきています。そこで今日は改めて阿部さんの「投資哲学」について、うかがいたいと思っています。とくに〝これから先の10年〟を阿部さんはどうご覧になっているのか──これが今日のテーマです。

阿部:それはものすごく重要なテーマだと思います。

藤吉:実は前回の対談で僕が驚いたのは、阿部さんがピーター・リンチ(アメリカの伝説的ファンドマネージャー。1980年代にフェデリティ・マゼランファンドを率いて29%の平均利回りをたたき出した)とお付き合いがあったということなんです。阿部さんが米国野村証券に勤めていた頃(1980年代前半)の顧客だったということでしたよね。
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阿部:付き合いがあったというのは言い過ぎです。当時私が担当していた重要な顧客でした。ただ当時、彼のところに出入りしていた日本人証券マンは僕くらいだったのは確かです。

藤吉:阿部さんの〝投資の師匠〟というとジョージ・ソロスやウォーレン・バフェットが知られていますが、リンチからはどういうことを学んだんですか?

阿部:一言でいうと、彼は僕に「バリュー投資」を教えてくれたんです。

株式投資の手法には、大きく分けると、企業の「バリュー(価値)」を重視する流派と「グロース(成長)」を重視する流派の2つがあります。

基本的には後者、つまりどんどん利益が伸びていく会社を買うのが主流で、成長性が高ければ、多少「PER」(=株価収益率:企業の株価が1株あたりの純利益の何倍の価値になっているかを示す投資尺度。現在の株価が企業の利益水準に対して割高か割安かを判断する目安として利用される)が高くても許容される傾向があります。

ただ、このグロース投資にはひとつ問題もあるんです。

藤吉:バブルを呼びやすいんですね。

〝ブラックサーズデー〟の「教訓」

阿部:その通り。ある意味では〝先のことはわからないけど、とにかく企業は成長するはずだ〟という前提に立っているのが「グロース投資」です。

楽観が楽観を呼んで、株価はどんどん高くなる。でも多少割高になっても、みんな成長性を見込んで買い続ける。それが行き着くところまで行って破綻したのが、1929年の〝ブラックサーズデー〟(1929年10月24日木曜日にニューヨーク株式市場で発生した株価の大暴落)でした。

藤吉:なるほど。

阿部:それまでアメリカ経済は絶好調でした。1918年に第一次世界大戦が終わって以降、欧州は非常に困難な難代を迎えるんですが、戦場にならなかったアメリカは、戦後のインフレも享受して、株価が上がり続けていた。

まさに世界経済の覇権がイギリスからアメリカに移ろうか、というタイミングで、バブルが弾けてしまった。

藤吉:そこから世界大恐慌へと突入していくんですよね。

阿部:このときの苦い教訓をもとに、アメリカで株式投資をもっと科学的に体系化しようという動きが生まれてきます。〝先のことは分からないのだから、分かることをベースに投資すべき〟という考え方ですね。

「分かること」というのは、例えば企業のバランスシートです。バランスシートの分析に重きを置いて、なるべく損をしないように投資する手法、これが「バリュー投資」です。
次ページ > 「日本株は高すぎる」とリンチは言った。

text by Hidenori Ito/ photograph by Kei Onaka

連載

市場の波をつかむ12の方法 スパークス代表・阿部修平×Forbes JAPAN 編集長・藤吉雅春

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