世界的な起業人気のいっそうの高まりと、AI(人工知能)の普及を追い風に急増する「ゼロイチ」の増加は、ベンチャー投資業界にも影響を及している。Airbnbやドロップボックスなどを生み出した米名門アクセラレーターの「Yコンビネータ」が、原点回帰を決めた背景と、今後の展望とは。
エアビーアンドビー(評価額1060億ドル)、ストライプ(同650億ドル)、ドアダッシュ(同530億ドル)ら世界的なスタートアップを輩出してきたアクセラレーター、Yコンビネーター。「繁栄の泉」を生み出した創業者が2022年、4代目のCEOに指名したのは、かつての教え子であり、ベンチャー投資家ランキング「ミダス・リスト」にも名を連ねるギャリー・タンだった。
2022年の夏、ギャリー・タンはサンフランシスコから飛行機に乗り、イングランドに居を構えるYコンビネーター(YC)共同創業者、ポール・グレアムのもとを訪れた。7年ぶりの再会である。
タンは、もともとYCのアクセラレータープログラムに参加したことがある起業家だった。その後、彼はYCのパートナーへと転身したものの、7年前にYCを離れてベンチャーキャピタルを設立。しかも、世界のベンチャー投資家ランキング「ミダス・リスト」にランクインするほどの投資家となり、何十万人もの登録者を抱えるYouTubeチャンネルの運営者という肩書きも加わっていた。そんなタンに対して、再会したグレアムはこう告げた。
「君がこの仕事をやり遂げてくれれば、未来がより早く訪れる」
YCのCEOを務め、かつての栄光を取り戻すよう、グレアムはタンに頼んだのだ。イノベーションとベンチャーの繁栄の泉」をリードする「100億回に一度の人生の機会」だと、CEO就任を発表した22年8月、フォーブスの取材でタンは話している。
CEOに就任してから取り組んだのが、タンが「原点回帰」と呼ぶ、YCの再構築だ。コロナ禍によってオンラインをベースに取り組まれることとなったプログラムを起業家による参加手続きからグループ分け、ソーシャル・アクティビティに至るまで、全面的に見直し。創業初期の起業家たちが3カ月で会社作りの基本を学ぶスタートアップのメッカとして、YCの地位を回復させるべく尽力した。