サイエンス

2024.06.18 14:00

日本にも生息、世界でも珍しい「二種類の毒」を持つヤマカガシ

東アジアと日本に生息するヤマカガシは、おそらく最も防御の堅い動物だ(Getty Images)

東アジアと日本に生息するヤマカガシは、おそらく最も防御の堅い動物だ(Getty Images)

ヘビの一種であるヤマカガシは、実に変わった生き物だ。数百万年にわたる進化は、動物界で他に類を見ない防衛機構をこのヘビに授けた。

ヤマカガシは、皮膚との接触や食べることで人間に悪影響を受ける毒(ポイズン)と、牙などで体内に注入されることで悪影響を与える毒(ベノム)の両方を持つ。2つの用語は同じ意味で使われることもあるが、生物的な意味は異なる。人間が食べたとき病気になる動物はポイズンを持ち(poisonous)、噛まれたときに病気になる動物はベノムを持つ(venomous)。

厳密な定義はもっと細かい。学術誌のToxiconに掲載された2015年の論文によると、ポイズンを持つ動物は毒性の化合物を体内で生成、あるいは外部から取り込み、体内に保存、蓄積することによって、捕食者や寄生生物を撃退するための受動的な防御機構を構築する。

ヤマカガシの場合、毒を持つカエルを食べることによって、毒を獲得する。具体的には、そのカエルが生成したブファジエノリドという猛毒(房室ブロック、心拍数低下、頻脈、さらには心停止を引き起こす)を安全に摂取できるように進化し、その毒を自らの防御目的のために蓄積するのだ。

研究によると、ヤマカガシは蓄積した毒を頸部にある毒腺から分泌し、休憩しているときでも捕食者を寄せ付けない。この毒による防御は、ヘビが体力を温存するために静止している低温下では特に重要だ。

ヤマカガシは、上顎の後方に毒牙を持つ後牙類の毒蛇だ。一般に、前牙類の毒蛇(毒の蓄積量が多く、より効率よく獲物に毒を送り込める)の方が後牙類よりも危険だと考えられているが、後牙類の毒蛇にも独特の危険性がある。

Journal of Toxicology誌に掲載された研究は、日本における1917年以降29件のヤマカガシによる咬傷例を報告しており、死亡例は稀だった。ヘビによる咬傷のほとんどは、自宅、野外あるいは路上で日中にヘビを捕まえようとした男性によるものだった。毒物が注入されると、噛まれた場所からの持続性の出血、歯茎からの出血、血尿、斑状出血、血液凝固作用への異常などの症状が起きる。

「ベノムとポイズン」の両方を持つヘビはほかにもいるのか?

ヤマカガシは、ベノムとポイズンの両方を持つヘビとして最もよく知られているが、ほかにもいくつか例はある。また、今後発見されるものもあるかもしれない。

たとえば、ヤマカガシ属(20以上の種がある)の他のヘビにも両方の毒を持つものがある。インド、ミャンマー、中国、ベトナムに生息するヤマカガシの一種は、防御ステロイドのルシブファジンを持つホタルの幼虫を食べることで毒を蓄積していることが報告されている。また、ミャンマー、中国、ラオスに生息する別のヤマカガシの一種は、常食であるミミズだけでなく、同じ理由でホタルの幼虫を食べる。

さらに、米国の一部に見られるガーターヘビも、ベノムとポイズンの両方を持つことがある。ただしヤマカガシの毒ほど強力ではない。ガーターヘビは毒性の弱いベノムを生成し、後牙の溝を通じて毒を注入して捕食者を撃退する。また、毒をもつイモリを食べる一部のガーターヘビは、肝臓内に数週間毒を蓄積することができる。

それでもベノムとポイズンの両方をもつヘビは極めて稀だ。世界で4000を超えるヘビ種の中でも、二重の防御機構を持っているのはほんの一握りにすぎない。

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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