映画

2024.05.18 14:15

「俺が死んでも詐欺はなくならない」 振り込め詐欺の現場を描く映画「声/姿なき犯罪者」

(c)2021 CJ ENM Co., Ltd., SOOFILM ALL RIGHTS RESERVED

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近年、全国で起きた特殊詐欺は認知件数・被害額ともに増加傾向にあるという。

「オレオレ詐欺」など対面型の詐欺は減少した一方、「サポート詐欺」など架空の料金を請求する詐欺が増えている。去年は海外に拠点を持つ詐欺グループの検挙が過去最大となり、最近では、ビデオ電話で警官を名乗る男に2600万円をだまし取られる事件もあった。

こうした特殊詐欺は日本だけで広がっているわけではないようだ。韓国では日本と同様に振り込め詐欺が増加し、それに伴って手口も巧妙化。大きな社会問題になっているという。そうした背景を受けて制作されたのが、『声/姿なき犯罪者』(キム・ソン&キム・ゴク監督、2021、原題は『On the Line』)である。
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主人公の妻や仕事仲間が大々的な振り込め詐欺の被害に遭ったことをきっかけに単独で犯罪組織に潜り込み、数々の危険を冒して最終的に奪われた金を取り戻すというサスペンスドラマだ。

本作のイントロには、年々増加する振り込め詐欺の年間総被害額が次々提示され、「2020年は7000億ウォン」と出る。今の日本円にして700億円を超える金額である。

詐欺の煽り立てるようなスピード感

『声/姿なき犯罪者』は、タイトルが出るまでのプロローグに仕込まれたスピード感と落差が秀逸だ。

舞台は釜山の大きなビル工事現場。所長から昇格を告げられた現場監督のハン・ソジュン(ピョン・ヨハン)は、食堂で働く妻に早速喜びの電話をかける。仲の良さそうな2人の様子が描かれる。

次いで、ヘルメットを被ってなかった不審な作業員をソジュンが注意してからまもなく、1人の作業員がぐらついた足場ごと落下し宙吊りに。ソジュンが助けようとするがうまくいかず、作業員の命綱が外れる。

その瞬間場面は切り替わり、ソジュンの妻に矢継ぎ早に電話がかかってくる。建設現場で死亡事故が起きたことを告げる弁護士を名乗る人物、次いで「現場監督のソジュンを逮捕した」という警察、再度「示談金を振り込め」という弁護士。次のショットでは、建設現場の周囲から車で逃走する犯人たち。

パニックに陥り言われるまま金を振り込んだ後、ようやく夫と繋がった電話で詐欺に遭ったことを知った妻は、銀行に駆け込む。犯人たちもATMへ。タッチの差で口座の凍結は間に合わず、妻には犯人から嘲笑うかのような電話がかかってくる。スマホで犯人に必死に懇願する妻は車道に踏み出してしまい‥‥。

ここまでのたたみかけるような展開は、犯罪サスペンス・アクションのつかみの定石通りであると同時に、振り込め詐欺という犯罪の持つ煽り立てるようなスピード感をそのまま示している。

韓国映画と言えば、犯罪を主題としたクライム・アクションドラマで数々の秀作を出してきたが、この作品はそれらで使われた様々な型や定石を丁寧に踏襲している。
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文=大野左紀子

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