サイエンス

2024.05.18 13:00

海の中でひっそり生きる「理論的に不老不死」の生物、その驚異の生態

「不老不死のクラゲ」として知られるベニクラゲ(Getty Images)

「不老不死のクラゲ」として知られるベニクラゲ(Getty Images)

生物科学の進化にもかかわらず、海はまだ多くの謎に包まれている。そこには、人間の理解を超え、想像力の限界に挑むような生き物がたくさん潜んでいる。そうした驚嘆すべき海洋生物のひとつに、クラゲがいる。
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数億年前から地球の海に生息してきたクラゲは、神秘的な美しさをたたえるものもいれば、地球の生き物とは思えないような異様な姿のものもいたりと多種多様だ。オワンクラゲの幽霊めいた発光、キタユウレイクラゲ(英名はlion’s mane jellyfish=ライオンのたてがみクラゲ)の長く伸びる触手など、それぞれの種が自然界で独特な適応や進化を遂げている。

そのなかでも際立って特異な能力をもつのが、「不老不死のクラゲ」として知られるベニクラゲだ。指の爪ほどの大きさの、あまり目立たないこのクラゲは、成熟後に若い「ポリプ」の形態に戻れるという類まれな能力がある。ポリプというのは、クラゲのライフサイクル(生活環)の初期ステージにあたり、通常は海底など固い表面にくっつく。

このステージのベニクラゲは小さな茎のような形をしていて、上に伸ばした触手で餌のプランクトンを捕らえる。ポリプは無性生殖でき、出芽して新しいポリプを次々に産み出し、コロニーを形成する。クラゲのライフサイクルにおいてポリプ期は決定的に重要で、その後、自由に泳げる成熟した「メデューサ」(よく知られる姿のクラゲ)の形態に成長する基になる。
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原理的に、ベニクラゲはストレスを受けたり傷を負ったり、年をとったりすると、現存する細胞をすべて若返らせることが可能だ。分化転換(transdifferentiation)と呼ばれるこのプロセスによって、クラゲはライフサイクルの始めの段階に理論的には無限に戻ることができるため、生物学的に不老不死という比類のない存在になっている。

この驚異的なメカニズムによって、ベニクラゲはライフサイクルや老化に関する人間の認識にも挑戦を突きつけている。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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