脱ブランドの傾向はたしかにある。だが、その内実はパンデミック前とは異なっている。ブランディングは複雑なマーケティング革命の真っ只中にある。
現時点での兆しは、食品価格の高騰だ。米紙ウォールストリート・ジャーナルは今月初め、「食品コストにうんざりの消費者、大手ブランドに見切り」と題した記事を掲載。インフレとプライベートブランド競争によって、スターバックス、マクドナルド、クラフト・ハインツといった食品関連大手が圧迫を受けていると報じた。
米労働省が発表した3月の消費者物価指数(CPI)をみると、食品全体の価格上昇が前年同月比2.1%と比較的緩やかだった一方、「外食」は4.5%上昇し、市場予想を上回った。カリフォルニア州では、マクドナルドでベーコンエッグベーグル1個とコーヒー1杯を注文しただけで支払い額が10ドル(約1600円)近くに上る。
食品小売市場では、メーカー大手が展開するナショナルブランドの半額で買えるストアブランドのパッケージ商品を手に取る消費者が増えている。転換点は2023年だったようだ。ある業界調査では消費者の過半数が、どこで買い物をするかを決める上でプライベートブランド商品の存在は「かなり重要」または「きわめて重要」だと答えた。
背景には食品価格にとどまらない事情もある。
脱ブランドの動きは消費者全般に広がっているようで、しかもそのペースは加速している。この傾向は、少なくとも2019年に「有償インフルエンサー疲れ」が話題になり、Z世代がインフルエンサーよりも、信頼する人々のレビューやオンラインコミュニティを頼り始めた頃から始まっている。
社会科学者によると、Z世代はブランドに対するロイヤリティ(忠誠心・愛着)が最も低い世代だという。それは1つには、多くのデジタルブランドが現れては消え、フェイスブックやグーグル、ツイッターがそれぞれメタ、アルファベット、Xへと企業名を変更したように、ぎこちなくリブランディングされるのを見てきたからだとされる。
そして、今や消費者は一般的に、かつてないほど情報に精通している。レビューや価格比較、ユーザー作成動画などを通じて、欲しいと思ったものに関する詳細をすぐさま網羅的に入手できるのだ。