野生動物たちに餌を与えたり、近づくことを禁止し、ドライバーに運転注意を呼びかけるための標識や、クマの出没情報を共有するための案内ボードなどが設置されていました。
さらに、バックカントリーと呼ばれる、ありのままの自然を楽しむアウトドアアクティビティの場では、動物たちとの距離がぐっと近くなります。例えばデナリ国立公園には、レンジャーさんたちから滞在に必要な情報や知識を教えてもらうための案内施設があり、守るべきルールも存在していました。
基本的に食材は全て「ベアー缶」に入れて持ち歩き、キャンプ場などには荷物やゴミ箱を入れるためのロッカーが設置されています。外に放置していると、鋭い嗅覚を持つ動物たちにあっという間に荒らされてしまいますし、何より危ないですからね。
やはり危険な状況でクマや野生動物たちと遭遇しないための行動を徹底することが大原則とされています。
その指標の一つとなるのが、野生動物たちとの距離感です。
安全な距離として、例えばムースは100m、クマは300mと現地のレンジャーに教わりました。また、その距離をフィールドで瞬時に判断するのは難しいので、体の前方に腕を突き出してグーサインして、親指に隠れるサイズならムースは安全な距離感、同じように小指を出して収まるならクマとの安全な距離感と判断できるとのことでした。
野生動物に出くわしてしまった時には──?
そして、それを超えて相手が近づいてきた場合には、まず大きな音を鳴らす、声をあげるという行動を取ります。もしテントを張っているなら揺さぶって体の一部に見えるようにしなさいとも言われました。相手に自分の存在を認識させるのが目的で、近くに物があればそれを使って、自分を大きく見せるのも効果的とされています。それでもさらに近づいてきたら、ムースやカリブーの場合は横にステップを切って避ける。多くの動物に対してもそうですが、背中を見せて逃げるのは危険です。
クマの場合にはベアスプレーの出番となります。唐辛子を主成分とし、嗅覚の鋭いクマにとって脅威となります。うつ伏せになって、首の後ろで手を組んで防御しながら顔とお腹を地面で守り、近づいてきたタイミングで不意打ちを狙いながらスプレーをクマの顔面を目掛けて発射する、というのがレンジャーから教えてもらった方法です。
クマ、野生動物を前にして、落ち着いてこうした行動をとれるかが最大の課題になりそうです。
アラスカでは、地元の人と話す度に「ベアスプレーは持っているか?」と聞かれるほどで、このような様々な対策は、文化と言えるほどに定着していました。そして、その背景にある思いを、とあるバーで出会ったオーナーの一言から感じました。
「クマや野生動物たちが暮らす自然の中に僕たちは住ませてもらっている」。
現代社会に暮らす中、忘れていた大切なことを思い出させてもらった気がしました。
海・都会・自然が調和したアメリカ西海岸の魅力
それでは、さらに南へ進んで、アメリカ西海岸の旅をお届けしてまいりましょう。シアトルを越え、ポートランド、サンフランシスコ、ロサンゼルスと海岸線を進むと、すっかり都会やリゾートといった感じですが、こういった都会でも自然と触れ合える場所が身近にあるのが、このウエストコーストの素晴らしい特徴だと思います。
これぞアメリカ...! 世界遺産、国立公園も迫力のスケール
国立公園発祥の地・アメリカには、世界遺産に登録されるなど、世界中から大勢の人々が訪れる国立公園や自然観光地が多く存在し、唯一無二の規模、歴史、迫力を誇ります。例えば、カリフォルニア州北部の世界遺産で、映画「スターウォーズ」や「ジュラシック・パーク」のロケ地としても知られる、レッドウッド国立州立公園。
世界で最も背が高くなる樹種「レッドウッド(セコイア)」をはじめ、緑が生い茂る広大な森を2日間たっぷりトレッキングしてきました。まさにどこを切り取っても映画の世界の中にいるようでしたが、特に朝日のタイミングでトレッキングに出かけると、巨木の間に差しこむ光と影のコントラストが非常に美しく、凛とした空気を味わうことができました。
オーバーツーリズム、訪問客のマナーの問題への対策や、絶滅が危惧されているカリフォルニアコンドルの保護活動など、自然保護への姿勢が徹底されていました。