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2024.05.16 09:15

半導体設計の「嫌われた存在」解決へ 名古屋大発サーモグラフィーの実力

露原直人
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Getty Images

今年3月、米国の半導体メーカーであるエヌビディアが、世界で第3位に浮上した。生成AIサービスの普及に伴い、半導体の需要が高まっているためだ。

日本では昨年12月、経済産業省が、京都府の電子部品メーカーであるロームと東芝デバイス&ストレージが共同申請していたパワー半導体の供給確保計画を認定した。経産省からの助成金は最大1294億円(対象事業総額の3分の1)と見込まれている。今年1月には、三菱電機が、耐久性を持ち、省エネなパワー半導体の新製品を発表。約1000億円を投じて新工場の建設にも乗り出すなど、メーカーは製品開発や供給能力の向上へと動き出している。

半導体素材メーカーが苦心する壁

半導体需要の急増に伴い、課題の1つとされているのが「放熱」だ。半導体の高性能化と小型化によって、少ない面積でより多くの熱が発生するようになっている。高温になると半導体自体の性能が急激に低下するとともに、周囲の部品の故障にも繋がる。最悪の場合、熱暴走という危険な状態に至るという。

そこで半導体素材メーカー各社は、効率よく熱を逃がす「放熱材料」の開発に取り組んでいる。しかし、この放熱材料は複数の素材を混ぜ合わせてつくられているため、性能向上には3つの障壁が生じている。「異方性(望んだ方向に熱が伝わらない)」「分散性(均一に伝わらない)」「界面熱抵抗」(スムーズに伝わらない)だ。

半導体素材メーカーは、上記の3つの障壁をクリアすることで放熱性能を向上させたいが、既存の手法ではそもそも評価できなかった。

この問題の解決に向け、短時間で正確な性能評価ができる製品開発に取り組むのが、名古屋大学機械システム工学専攻の長野方星教授の研究室で立ち上げられた「Thermier(サミエル)」だ。

同研究室は、特殊なサーモグラフィー技術で温度変化速度を分析する装置「THERMOSPECT(サーモスペクト)」を開発。2023年3月に製品プロトタイプの開発を終えたが、パワー半導体や放熱材料に関連する企業を中心に、すでに21件の受託測定、10件の共同研究開発の依頼が舞い込んでいるという。


サミエルの代表を務める藤田涼平とサーモスペクト

熱設計短縮で、唯一無二の存在に

サミエルの代表を務める藤田涼平は、もともと全日本空輸(ANA)で3年間、航空機の機体整備に携わった。その業務には、構造物や材料を破壊せずに欠陥を検出する非破壊検査がある。現在は博士課程において、サーモスペクトをさらに発展させた検査手法を開発し、航空機用材料の疲労を評価する研究を行っている。

「航空機用の材料も半導体の放熱に使われる材料も、同じ複合材です。熱流の可視化によって、熱の伝わりやすさを改善するだけでなく、材料の劣化度合いを判定する、構造を逆解析するなどさまざまな発展性を備える技術を研究しています」(藤田)

サミエルは、​​2023年秋にJapan Mobility Showで開催されたForbes JAPAN ACADEMIA ENTREPRENEUR SUMMIT 2023で、「モビリティの未来を前進させる取り組み」としてグランプリにも輝いた。

「熱設計は、半導体の設計フローでは最後に問題となることが多い、嫌われた存在です。サミエルは設計・開発の上流で放熱のボトルネックを早期に発見し、熱設計を短縮できる唯一無二の存在になっていきたいと考えています」

2024年度中には法人を立ち上げ、2026年度のTHERMO SPECTの製品化を目指す。

文=露原直人

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