日銀が短期金利を0.25%幅引き上げるたびに、政治的に大きな影響をおよぼすことになる。10年物国債の利回りが上昇し、国債の利払い費が増えるからだ。さらに、日本株式会社が果たして金融のステロイドなしに、海外のエコノミストたちが考えるようにやっていけるのかという別の問題もある。
一例を挙げれば、脆弱な地方銀行システムをめぐる懸念がある。日本全国には、人口減少と高齢化が進む地元経済向けに融資し、収益性の低い地銀が100ほどある。
過去10年、日本政府は地銀の統合を進めようとしてきたが、うまくいっていない。融資先候補の企業がどんどん減るなか、多くの地銀は期間が長めの国債に多額の投資をするようになっている。こうした慣行は、2023年3月のシリコンバレー銀行破綻について学んだ人には聞き覚えのあるものだろう。
植田はまた、円問題も抱えている。金融政策のブレーキを強く踏み過ぎると、円相場が急騰し、世界市場に打撃を与えてしまう。ゼロ金利の25年間で、日本は世界最大の純債権国になった。各国のヘッジファンドは日本で安く借り入れ、その資金をニューヨーク、サンパウロ、ムンバイ、上海など世界の高利回り市場の資産に投じている。
日銀の金融政策の現状については、「車に追いついてしまった犬」ということわざを引用せずにいられない。日銀が何十年も生み出そうと苦心してきたインフレが、日本についに到来した。だが、それにどう対処したらいいのか、日銀はよくわかっていないのだ。
植田には、これらの問題に関する決断を後任者に任せる余裕はもう残されていないだろう。大きな、そして破壊的なものになり得る決断を、植田はいま下さなくてはならない。アジア第2の経済大国のためには、それは早ければ早いほどいい。
(forbes.com 原文)