アジア

2024.05.15 09:00

「待望」のインフレを手にした日銀、立ちすくんでいる場合ではない

植田が昨年10月かそれ以前に金融政策の正常化に乗り出していれば、どんなに良かったか。また、2024年3月でなく総裁就任早々に政策金利を0.1%に引き上げていれば、植田の仕事はいまごろもっと楽になっていただろう。量的緩和政策を段階的に縮小する計画とそのスケジュールについても、同じことが言える。

さらに言えば、植田の前任者である黒田東彦前総裁が、10年にわたる在任中に政府・日銀が散らかしたものの後始末に着手していれば、もっと良かったはずだ。黒田は2013年4月に日銀総裁に就任すると、すでに12年続いていた量的緩和を一気に加速させた。

黒田は、現代の中央銀行の仕組みを変えるほどの大規模な資産購入に踏み切った。日銀は国債や上場投資信託(ETF)を大量に買い入れ、2018年にはバランスシートが日本の約550兆円の国内総生産(GDP)を上回る規模に膨れ上がった。

だが、日銀は出口戦略をろくに立てていなかった。毎年、ただひたすら資産を買い続けた。国債市場であまりに大きな存在になりすぎて、取引活動をほとんどまひさせるほどになっても、国債を買うのをやめなかった。

G7の一国の中央銀行が日本株の圧倒的に大きな保有者であることの「モラルハザード」の副作用を指摘する声が上がっても、日銀はETFを通じた株買いも続けた。そうして黒田日銀は事実上、身動きがとれなくなった。それはいまの日銀もほとんど変わっていない。

日銀が世界の市場にミニパニックを引き起こさず、何百兆円にのぼる国債やETFの保有残高を減らしていくにはどうすればいいのか。黒田は賢く、実務家としての手腕も高かったが、その仕事は後任者に押しつけたようだ。

これこそ困難極まる仕事だ。ETFや株式の売却を急ぎすぎれば、植田は日本でここ数十年で最高の株高を止めた人物として記憶されることになりかねない。一方、国債の圧縮も急ぎすぎれば、日本の国債利回りは過去数十年みられなかった水準に急上昇するかもしれない。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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