とはいえ、ハルキウの北東40kmほどにあり、ロシアとの国境からわずか数kmしか離れていないボウチャンシク市の住民にとっては、どちらであろうとあまり関係ないかもしれない。故郷が再び戦場になっているのだ。
ロシアの2022年2月の全面侵攻前におよそ1万7000人が住んでいたボウチャンシクは、侵攻開始直後にロシア軍に占領された。その7カ月後、ウクライナ軍の最初の反転攻勢の過程で解放された。だが今、ロシア軍の3個連隊の部隊に再び狙われている。数千人の住民が避難を余儀なくされており、なかにはこの2年あまりで2回目の避難になる人もいる。
ボウチャンシクの戦いは、ロシア軍による北方からの新たな作戦で最初の大きな戦いのひとつになる可能性がある。また、ロシア軍による数日間の偵察行動を経て、この方面の戦いを形づくる力学も徐々に見えてきた。
まず、ボウチャンシク市内やその周辺のウクライナ側の防御は、本来あるべき状態より手薄だったのかもしれない。ウクライナ軍の将校デニス・ヤロスラウスキーは「要塞と地雷の第1線はたんに存在しなかった」と述べ、この不完全な防御は以前ここを守っていた領土防衛隊の部隊に責任の一端があると非難した。
ロシア軍の偵察部隊はボウチャンシク市内やその周辺のウクライナ側の防御線に穴がないか、探りを入れている。とくに、ロシア側にとって地理的に有利な区域での偵察に注力している。
ボウチャンシク周辺の場合、これは市の北西方面を意味する。市の西方にはドネツ川が流れており、進撃するロシア軍部隊の右翼(敵方に向かって右側)にとって自然の防護壁になるからだ。ウクライナのシンクタンク、防衛戦略センター(CDS)は12日の作戦状況評価で、川に沿ってボウチャンシクに進めば「敵(ロシア軍)は兵力を温存できる」と指摘している。