欧州

2024.05.14 09:00

陽動か本格攻勢か ロシア軍の巧妙な作戦、ウクライナを翻弄

ロシア軍は自軍に有利な地形で脆弱な集落などを特定すると、広範な攻撃の前段階として衛星誘導の滑空爆弾を撃ち込む。キーウ・インディペンデント紙のオーストラリア人従軍記者フランシス・ファレルによると、11日にはボウチャンシクに滑空爆弾が20発投下された。「わたしたちが目撃した滑空爆弾の大半は無差別に民家を破壊し、人々や動物を殺傷した」とファレルは報告している

ファレルはこうした爆撃を「破壊のための破壊」と表現しているが、それは違う。ロシア軍機が最前線の集落などの民間の建物を破壊するのはウクライナ軍部隊の隠れ場所を奪うためであり、ロシア側がいつもやっていることだ。だとすれば、ボウチャンシクに対する滑空爆弾による爆撃はロシア軍が同市への地上攻撃を激化させる兆候なのかもしれない。

ロシア軍による北方からの作戦が陽動だとすれば、目的はおそらく、東部の攻勢の中心地チャシウヤールなどの都市を守っているウクライナ軍の旅団を北へ引き離すことだろう。しかし、この作戦が本格的な攻勢であれば、近日中に複数の連隊全体がボウチャンシクを攻撃するかもしれない。

ウクライナ軍の首脳部にとってのジレンマは、仮に陽動だったとしても、ロシア側は東部の作戦から兵力を回す余力がある限り、それをひそかに攻勢に転じることもできる点だ。フィンランドの軍事アナリスト、ヨニ・アスコラは「ウクライナ側の人的戦力の制約を考えれば巧妙な方策だ」と解説している

ウクライナ側は危険を冒さないようにしているようだ。第59独立自動車化歩兵旅団や第93独立強襲旅団など数個旅団の部隊がすでにボウチャンシクに入っているか、向かう途上にある。第93旅団は、保有する最高の車両であるスウェーデン製CV90歩兵戦闘車投入している

ウクライナ軍のオレクサンドル・シルスキー総司令官は「敵の計画は把握しており、敵のあらゆる作戦行動に柔軟に対応できる」と述べ、ロシア側の動きに合わせて部隊を配置する考えを示している。

ただ、シルスキーの楽観的な発言は、ある重要な事実を認めている。ロシア側がまず動き、ウクライナ側はそれに対応しているということだ。つまり、ロシア側が主導権を握っているということだ。

forbes.com 原文

翻訳・編集=江戸伸禎

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