プロサッカー選手兼監督で投資家の本田圭佑が、日本で新たな挑戦に動き出した。2024年1月、国内のスタートアップ企業へ特化した新ファンド「X&KSK Fund」を設立し、投資活動をスタートさせたのだ。国内外の機関投資家などから年内に150億円規模の資金調達を目指しており、グローバル展開に注力する起業家を支援していくという。
本田はスタートアップ投資家としてすでに約7年のキャリアを歩み、実績を積み重ねてきた。プロサッカー選手としてACミランに在籍していた16年に立ち上げた個人ファンド「KSK Angel Fund」では、200社以上に投資し、AnyMind Group、マクアケ、プログリットの3社がIPO、7社がM&Aを果たした。
18年に俳優のウィル・スミスと設立した「Dreamers Fund」では、米国のスタートアップに投資し、9社が時価総額10億ドルを超えるユニコーン企業に。このうちWeb3開発プラットフォームのアルケミーら2社は、100億ドル超のデカコーン企業に成長している。
経済的なリターンだけを考えれば、実績を上げている既存ファンドに専念するという選択肢もあったはずだ。「個人的な野心と合理性だけで考えたら、今回のアイデアには至らなかったですよ」と本田は話す。「ミッションドリブンでありながら、インパクトを出し、ビジネスとしても成立させていくために描いたビッグチャレンジなんです」
日本への強烈な危機感
背景にあるのが、日本のスタートアップ・エコシステムに対する強烈な危機感だ。国内の評価額10億ドルを超えるユニコーン企業は10社程度にとどまり、過去3年で東証グロース上場時の時価総額が1000億円を超えていたのは、ビジョナルやANYCOLORなど数社しかない。要因のひとつが、世界的に見ても上場基準が緩いために、本来は事業成長の手段であるはずのIPOが目的化し、企業価値が大きくなる前に起業家やVCが早期のイグジット(出口戦略)へ突き進んでしまうことだ。特に時価総額100億円未満では、機関投資家から注目されにくく、IPO後の成長戦略がうまく描けない場合は「上場ゴール」と揶揄されることもある。
「日本のスタートアップ・エコシステムが発展してきたのは、間違いなくVCの貢献によるもの」と前置きしつつ、本田は現状に警鐘を鳴らす。「言葉を選ばずに言うと、本質的ではないことをやってきた面もあるわけです。
上場することがプロサッカー選手になることだとしたら、日本はそのハードルが極めて低い。そんなレベルでプロになったらあかんよって話です。上場したときより今の時価総額が低いという状態は、サッカー界ではありえない。ずっと成長していかなければいけないんです。それが今起きていないということは、何かしらこの業界が反省しないといけない」