「早期に上場しないことがペナルティになるような条項は投資契約に含めない。株式上場はあくまで手段のひとつであり、スタートアップが大きな成長を実現するため、上場という手段を取るかどうかは経営戦略にもとづいて判断するのが望ましいためだ。スタートアップの長期的な成長の自由度をあげることが狙い」。そう話すのは、デライト・ベンチャーズのマネージングパートナー渡辺大だ。
政府はスタートアップ育成5カ年計画で、将来的に100社のユニコーン企業(企業価値10億ドル以上の未上場企業)を創出する目標を掲げているが、現在その数は10社程度。時価総額数十億円でIPOする「小粒上場」も多いのが実態だ。
同社はこうした背景のひとつに「日本のスタートアップ投資契約の特殊性」を挙げ、その解決策として投資方針を明文化した。「グローバルと比較し、成長過程の早い段階に小さいサイズで上場している傾向がある。VCにとっては利益が確定できるが、スタートアップの成長に必ずしも寄与するわけではない。例えば、上場準備にかかる取り組みが、海外展開などの長期的な挑戦の足かせになることもある」
また、日本では、上場できる状況にもかかわらず、実行しない場合やそのほかの契約違反の際に「株の買い取り義務」を強いるケースがあるが、渡辺は、「創業者個人に金銭リスクを取らせる」条項を撤廃した。違約罰を会社に課すことで、モラルハザードを防いでいる。さらに、柔軟に発行・付与できるストック・オプションの仕組みも導入した。
「日本では、VC、起業家の役割・リスク分担が大きなイノベーションを生むにはまだ最適化されていない。特に、起業家が金銭リスクを取らなければならなかったり、早期上場で成長の最大化ができる状態ではないという、エコシステム進化の初期段階にある特徴が見られる」
同社は23年7月、150億円規模のファンドを組成。シード、アーリーへの投資を行っているが、ディープテック分野など「時間がかかる」領域への投資も始めている。
「VCの最大の目的は投資収益を上げること。上場努力義務を課さないのは利益を犠牲にしているわけではない。むしろ反対で、ホームラン級の成功につながり、結果的に投資家の利益にもなる。米国などでは努力義務はないのが一般的で、その標準に合わせて日本のエコシステムのROIを最大化することができればいい」
渡辺大◎大手銀行を経て2000年DeNAに入社し、05年より海外事業責任者を担当。08年に渡米しDeNA Global,President、DeNA Corp., VP of Strategy and Corp Dev等を歴任。19年にデライト・ベンチャーズを立ち上げ、日本発スタートアップの成長と海外進出を支援。