「美」は、ステレオタイプを乗り越えた先にある?

鈴木 奈央
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Ipsum Alii 創業者であるキコック・ヴェオプラセウトとノラ・カトウ

「人こそ人の鏡」といいますが、私にとって自分の容姿を静観する瞬間は、他人との出会いがもたらしてきました。住む場所を変え、新たな人々に出会うたびに、これまで作り上げてきた自分のイメージと現地での扱われ方にズレを感じ、その文化での自分にふさわしい「美しさの記号」を探す旅に出ている気がします。

美しさの探求は、モチベーション、つまり行動のきっかけを生みます。容姿に限らず、「今日はコーヒーではなくて紅茶にしよう」とか「この音楽を聴こう」といった日常的な判断の根底には、自分がなりたいと思う姿への美的探求があるはずです。

こういった美しさの判断基準は社会的であり、個人的でもあります。だからこそ、新・ラグジュアリーを駆動するヒントが「美しさ」に真正面に向き合うヘルス&ビューティーのエリアにあるのではないかと考えたとき、あるブランドを思い出しました。

「ユーラシアン」なブランド

スイス・チューリッヒ拠点の日本製スキンケアブランド、「Ipsum Alii (イプサム・アリイ)」の創設者キコック・ヴェオプラセウトとノラ・カトウに出会ったのは、彼らの商品パッケージのデザインを依頼されたときでした。キコックとノラはどちらも日本で生活した経験があり、ヨーロッパに戻って改めて、日本では当たり前だった健康習慣のウェルネス的価値を考えるようになったと言います。

なかでも漢方哲学にインスピレーションを見出した二人は、多忙な現代的生活に平衡と循環をもたらすことをミッションに、漢方の知識をベースにしたスキンケア製品のラインナップを開発しました。

一緒にプロジェクトをしていて圧倒されたのは、多文化的で学際的な背景を持つ二人の抜群のセンスとバランス感覚でした。例えばそれは、Ipsum Aliiという名前に現れています。

ラテン語に由来を持つこの名前ですが、Ipsumには「自身」、Aliiには「他者」という意味があります。

「『自分自身を大切にすることが、身の回りの環境への敬意に繋がる』という哲学を反映したこの名前には、自身と周囲のバランスが取れた関係への道を示すという意味が込められています」。そう語る二人は、日本の古代医学をインスピレーションにした時点で、日本的な名前ではなく、欧州では医学知識を連想させるラテン語を使うことが、このブランドにとってふさわしいと直感で決めたといいます。
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文=前澤知美(前半)、安西洋之(後半)

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