VC

2024.05.17 15:30

国内VC産業は新ステージへ「世界を変える」ために必要なこと

国内VC産業が、新たな成長ステージに突入している。業界の現在地とこれからのあるべき姿とは何か。


「まさに太陽と月の関係だ。スタートアップ・エコシステムとともに、ベンチャーキャピタル(VC)産業は発展してきた」

過去10年間のVC産業の歴史について、グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)代表パートナーの高宮慎一はこう話す。2013年、アベノミクスによる成長戦略の柱のひとつとしてスタートアップ振興が始まって以降、オルタナティブ投資のなかでも日陰の存在だった国内VCアセットクラスに銀行や事業会社の資金が流入し始めた。エクイティによる資金調達という手法が浸透すると、有力なスタートアップはめきめきと頭角を現し、IPOやM&Aの件数が増加。VCアセットは徐々に機関投資家からも評価され始め、実績を上げたファンドには、さらなる資金が還流する循環が生まれた。

VCのファンド設立数はこの10年で飛躍的に増加し、23年のスタートアップ資金調達総額は7536億円(INITIAL調べ)と8倍以上に膨らんだ。このうちVCによる投資額は37.2%と最も多くを占め、エコシステム拡大に貢献してきた。「本当の意味で産業といえるようになってきた。多様なプレイヤーが出現し、層が分厚くなっている」と話すのは、ANRI代表パートナーの佐俣アンリだ。

10年前にはVCファンド運営を専業で行う事業体は数えるくらいしかなかったが、今日に至るまでに独立系、事業会社系(CVC)、大学系と多様なVCファームが設立。13年に91社だった日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の会員数は23年末時点で359社に拡大した。近年では、100億円以上のファンドレイズも珍しくなくなったほか、経験を積んだキャピタリストが独立し、個人でファンド運営の責任を負うGP(ジェネラルパートナー)となる動きも加速。研究開発型のディープテックや脱炭素、インパクト投資など、専門領域に特化したファンドも顕著に増え、産業の裾野が広がっている。

特に見逃せないのが、ここ2年の動きだ。米国の金融引き締めに端を発するマーケットクラッシュはベンチャー産業にも大きな影響を与え、同国のVCによるスタートアップ投資額は23年が前年比3割減の1706億ドルと2年連続で減少。VC側の調達額も前年比6割減の669億ドルと落ち込んだ(ピッチブックおよび全米ベンチャーキャピタル協会調べ)。一方、23年の国内資金調達総額は前年比2割減にとどまる。過去を振り返れば、リーマンショックのときには、市況悪化を受けて投資を抑える動きが顕著だったし、VCの人材採用も停滞した。それが今は、「この産業に根を張ってやっていこうという会社がたくさんいて、安定して人材も取れるようになってきた。大きな進化だ」(佐俣)。

10年間の歩みについて業界関係者はおおむね高く評価しているが、現状に慢心しているわけではない。むしろ、新たなステージに突入したタイミングととらえている。

「次なるチャレンジは、1社で産業になるような1兆円企業をどうつくるか。そのためには突き抜けるスタートアップ、突き抜けるVCが必要だ」とGCPの高宮は話す。

スタートアップのIPO・M&A件数は拡大し、メルカリやビジョナル、ANYCOLORなど、評価額1000億円以上で上場する事例も複数生まれている。ただし、現時点で時価総額が1兆円を超えている会社はひとつもない。VC側に目を向けると、ファンドサイズの大型化が進んでおり、リターン創出のためにはより大型なイグジットが不可欠という事情もある。
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文=眞鍋 武 イラストレーション=アンドレア・マンザッティ

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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